本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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伝統工芸の技を体系的に学ぶことができる、日本で唯一の学校「京都伝統工芸大学校」。 学校で伝統工芸を学ぶ意義や、これからの時代に求められる、新たな職人像についてお伺いしてきました。
京都伝統工芸大学校
1995年に設立された私立専修学校。通称TASK。京都府南丹市園部町二本松にキャンパスを構え、陶芸、木彫刻、木工芸、漆工芸など10専攻2コースから、学びたい工芸と希望する進路にマッチしたコースを選ぶことができる。
日本文化や伝統工芸に携わりたいという熱い志を持った学生たちが、年齢や国境を超えて集まり、技術の習得に励んでいる。
取材協力者プロフィール
陶芸専攻
工藤 良建 教授
幼少期からものづくりへの関心が高く、高校卒業後、陶芸を学ぶ学校に入学。
サラリーマン生活を経て、再度陶芸の道へ。1993年に陶芸家として独立。地元である南丹市に自宅兼工房を構え、陶芸家としての活動を続けながら、TASK開校に尽力。現在は陶芸コースで学生たちの指導に当たりながら、教務部長を務める。
先生、今日はよろしくお願いします!まずは気になったところを質問させてください。学校の愛称である「TASK」ですがなんと呼んだらいいんですか?また、どのような意味が込められているのですか?
よろしくお願いします!TASKの呼び方はそのまま「タスク」です。Traditional Arts Super College of Kyotoの頭文字をとっています。伝統工芸の技を学ぶ国内唯一の学校という意味で名付けられました。
呼びやすい愛称ですよね!外国人方でも覚えやすく良さそうですね!
そうですね。やっぱり自分の学校には愛着を持ってもらいたいですし、良い愛称だと思っています。
続いて、京都伝統工芸大学が誕生した経緯や目的を教えてください。
平成4年に伝産法(伝統的工芸品産業の振興に関する法律)が改定され、後継者育成を支援する法律ができたのですが、それに基づき、平成5年に財団法人京都伝統産業支援センターというものが設立されました。その支援センターが母体となり、平成7年に京都伝統工芸専門校として学校が誕生しました。
門外不出とも言われる伝統工芸の技術を学校で教えるというのは、非常に新しい取り組みだったかと思います。設立当初、業界からの風当たりや評価はどのようなものだったのでしょうか?
学校が設立された当時の伝統工芸業界では、組合ごとの横の繋がりもなく、『後継者を育成する=商売敵を作ること』という認識も強かったので、講師派遣の依頼をかけても、協力することが難しいと言われたり、反発の声もありました。
そのような状況下で、どのように確固たる地位を築かれていったのでしょうか?
開校当初、講師として活躍してくださった高齢の先生方が、「自分の持っている技術を次の世代に繋げて、役割を終えたい」といった熱い思いを持って、献身的に学生たちの育成や学校運営に携わってくださったこと、卒業生たちが京都だけでなく全国で活躍し、実績を積んでくれたことの積み重ねが大きいと感じています。右も左もわからない状態で工房の扉を叩いた時は弟子入りを断られたけれど、「TASKを卒業してからだったら、来てもいいよ」と言われたという話もたくさんあるんですよ。
海外からの評価も高いと聞きますが?
卒業・修了制作展で選ばれた学生の作品がイタリアの展示会で名誉ある賞を受けたり、フランス、アメリカなどから学生をぜひ派遣してくださいといった声も多くいただいております。
国内外で素晴らしい実績を積まれているんですね!
現在、TASKにはどのような方々が通われているんですか?
年齢や出身地、バックグラウンドなどは、本当に様々な学生が集まっています。直近の入学者の内訳をご紹介すると、高校を卒業後に入学される方が70%、大学・短大から来られる方が5.5%、社会人が12.7%ほどです。60代、70代で入学される方もいらっしゃるんですよ。
どのようなきっかけでTASKに入学を希望される方が多いのでしょうか?
大前提として、日本の文化が大好きという学生たちが非常に多いですね。それに加えて、伝統工芸の後継者が不足しているという情報を何らかの形で耳にしたり、学校で学んだりして、それに対して危機感を持って、入学してくる学生が多いような気がしています。伝統工芸の後継者というと、跡取り娘や息子をイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、TASKに入学される方々でそういったバックボーンをお持ちの方は、少数派なんですよ。
海外からの留学生も多いそうですが?
入学者160人程度に対して1割程の留学生が毎年、入学しています。出身は中国、韓国、台湾、イギリス、フランスなど様々です。近年では、アメリカで生まれて育った日本人の方や、ご両親のどちらかが日本人など、海外で生活をしながらも、日本に何かしらの思い入れやルーツがあり、日本の伝統工芸を学びたいといった学生が増えてきているのが特徴です。
TASKでは、効率的に技術を習得できることが特徴だと思いますが、実際にどういったカリキュラムが組まれているのでしょうか?
全体の50%、1週間5日のうちの2日半を専門的な実習に費やしています。座学系の講義には、日本工芸史、美術史、伝産論、商品開発といったものから、デザイン系の授業などもありますが、授業全体がものづくりに関わるようになっているんですよ。
学生1人当たり、年間どれぐらいの作品数を作られるんですか?
専攻によっても異なるので、一概に数で表すのは難しいのですが、専攻ごとの特徴に応じて、効率よく進められるように工夫をしています。陶芸でしたら、1つの課題に対して、100個提出してもらい、合格したら次へというようなシステムを取っています。
在学中にたくさんの作品を作ることができるんですね!これまでの伝統工芸業界においては、弟子入りして技術を学ぶことがメジャーだったと思うのですが、弟子入りすることと学校で学ぶことの違いとはなんでしょうか?
もはや「弟子入り」という言葉が死語になってきていると感じています。弟子は元来、どうしたら先生が仕事をしやすいかを考えて動くものであり、「技術を教えてください」というような立場ではないんです。また知識がない人を弟子に取るということは、教育にも非常に時間がかかります。もっとも工房は利益を追求していかなければならないので、作るのに精一杯で、時間をかけて人を育てる余力がないのです。
そういった意味では、学校で事前に技術や知識をつけてから、工房の門を叩けるというのはとても大きなメリットですね。
そうですね。TASKで学んだ学生は、学校で基本的な道具の名前や作業に関する用語を身につけているので、工房で足手まといになるといった状況を避けることができます。また基礎的な知識があるからそこ、工房に入った後に、技術を“見て自分のものにする”ことができるというのも、大きな強みになると思います。
弟子入りするのと学校で技術を学ぶとでは、一人前になるまでにかかる時間に差はありますか?
弟子入りすると雑用をこなしていくところから始まりますね。一方で、学校に入れば最初からものづくりの核心が学べるので、その差は大きいと感じます。またゼロの状態で工房に入ると、本当にこの世界に向いているのか適性を見分けるのに数年かかりますが、すでに学校で経験を積んだ学生たちは、適性を見分ける時間を最小限に抑えることができるといったメリットもあります。
他にも学校で伝統工芸を学ぶことのメリットはありますか?
専攻を越えた、“一生モノの横のつながり”を得られることは非常に大きいと思います。木工芸の学生が金属の部品を使いたいからと金属工芸の学生に相談を持ちかけるといった風に、専攻の垣根を越えたコラボレーションから、新しい作品が生まれているんですよ。
逆に学校で学ぶことによるデメリットのようなものはありますか?
弟子を入りして、何年も雑用で我慢してきたような子たちは精神力がとにかく強い。もちろん個人差はありますが、学生は温室育ちのような面があるので、打たれ弱いといった一面はあるのかなと思います。
これからの時代、職人のあるべき姿とはどういったものだと思われますか?
日本で使われる“職人”という言葉には、昔の人が使う意味合いと今の人が使う意味合いで大きな差があると思います。昔の職人は、あくまでも生きる術、仕事として選ばれるものでした。でも今の子たちに取って、職人というのは夢を抱いて選択するもの。自己表現の場としてものづくりを捉えている学生が多いと感じています。
雇う側のニーズとしても、昔ながらの職人のように同じものを100個作れることを希望するを工房や地域もあれば、1日に50個作れればいいから、ウェブで商品のことを発信できる力が欲しいといった風に、多様化してきていると感じています。
そういった流れに対して、学校として力を入れられていることはありますか?
時代に沿った伝統工芸を学べるよう、カリキュラムの見直しを柔軟に行なっています。また基本的な技術の習得以外にも、自己プロデユース能力やプレゼン能力、デザイン力を伸ばすことができる工芸クリエイターコースというコースにも力を入れています。このコースでは老舗旅館とコラボレーションして、学生たちがグッズを作って販売するなど、より実践的なプロジェクトに取り組んでいるんですよ。
最後にこれから職人を目指したい、TASKへの入学を検討しているといった方たちにメッセージをお願いします!
TASKのアドミッションポリシーの一つに「学んだことを活かした職業に就くこと」を掲げています。伝統工芸の世界で、プロになりたいという強い気持ちを持った方にぜひ入学していただきたいですね。
またTASKでは、人間力やコミュニケーション能力を磨くことができる様々なプロジェクト演習を用意しています。例えば陶芸の穴窯実習では、24時間窯に張り付かなければならない場面などもあり、チームで役割を分担し協力しながら、一つのものを作り上げていくんですよ。
ここでプロになりたい、人間的に成長したいと思っている学生さんが入学してくださったら、きっと素晴らしい学生生活を送っていただけると思います。
長い年月をかけて技術を習得するものが通例だった伝統工芸の世界に、新たな一石を投じた京都伝統工芸大学校。次世代の後継者育成に情熱と愛情を持って取り組まれている先生方のお話がとても印象的でした。
実践で生きる技術を習得するためには、厳しい課題をクリアする必要がありますが、その道のプロとして、伝統工芸の世界で生きていきたいとお考えの方は、進路の候補として是非一度検討されてみてくださいね。
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