本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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数年にわたるコロナ禍の影響で、伝統工芸の世界もインバウンドの需要がゼロになるなど多大な影響を受けました。
今回は、自身もコロナに疾患し生死をさまよった体験を持つ大湊文吉商店の4代目社長・大湊陽輔さんに、コロナ禍にも関わらずヒット商品を生み出せた秘訣、またコロナ後の世界で伝統工芸が発展していくために必要なことについて、お話を伺います。
屏風づくりの技術を生かしたモダンでお洒落なインテリアは、「部屋に置きたい!」と思わせるものばかりです!
北越の小京都と呼ばれる新潟県加茂市で明治初頭に創業。初代大湊文吉が加茂の産品であった和紙を利用し、柿渋から抽出したものを紙に塗った「渋紙」の製造卸を始める。昭和に入り二代目文吉が加茂の地場産業である箪笥・建具の技術を利用して表装屏風の製造卸を始め、それまでの主力商品であった「紙」と「木」の融合商品が生まれる。 昭和50年代には、それまでの純和風の調度品だけでなく、和洋折衷デザインの商品を開発製造。 昭和60年代からは総合インテリア商品の製造に着手。屏風からパーテーション・家具インテリアにその商品展開の幅を拡大し、建具・表装及び家具製造の技術を総合して業務用什器、仏具に市場を展開。 平成17年(2005年)より新潟県発海外ブランド「百年物語」に参加。世界市場への展開も果たす。
中谷:
数年に及ぶコロナ禍で、経済や生活全般に大きな影響がありましたが、伝統工芸界ではどうだったのでしょうか。
大湊さん:
経済が停滞してしまったので、世界中で「もの」が売れなくなりました。伝統工芸は皆ものづくりなので、それがお金に変わらないと生活ができません。
伝統工芸品の中でも「実用品」と「嗜好品」があると思いますが、うちの屏風なんかも嗜好品なので、コロナの影響をもろにかぶりました。
中谷:
それで、どのような対応をされたのですか?
大湊さん:
1年目と2年目、3年目で全然対応が違いました。1年目は補助金などが出たので大丈夫でした。メインだった仏具は止まりましたが、飛沫防止パーテーションを手掛けたので売り上げは落ちませんでした。
中谷:
コロナ禍のアイディア商品として、大湊さんの飛沫防止パーテーションは秀逸ですよね!
大湊さん:
普通のパーテーションはアクリル板だけでつくられますが、うちは屏風の技術があったので、木でフレームをつけました。ホテル、旅館、高級割烹などで大きな需要がありました。
中谷:
飛沫パーテーションはどういうきっかけでつくられたのですか?
大湊さん:
人と人とのつながりから生まれました。私は新潟県の加茂市に住んでいますが、加茂市と、「工場の祭典」などものづくりで有名な燕市、三条市は3つつながっているんです。
もともと私の父が三条出身で、私も子供の頃から三条が遊び場でした。そこに「燕三条デザイン研究会」という、業種に関係なくデザインということで150社くらいが参加しているグループがあるのですが、私は加茂市からは唯一、そのグループに参加していました。
そのグループの中にステンレスの厨房用品をつくっている会社があって、そこの社長は友人なのですが、そこが真っ先にアクリル板をレーザーでカットしてステンレスの足をつけた飛沫防止パーテーションを発売したんです。そこから、「和風も欲しいよね」という話になりました。
ある日、旅館ホテル専門の商社から電話があって、「和食のカウンターに合うようなパーテーションが欲しい」と言われたので、「じゃあ、屏風のフレームがあるので、中の紙や障子を外してアクリルをはめてみようか」と。翌日サンプルをつくり、即採用になりました。
中谷:
あれよあれよという間に、話が進んだのですね!
大湊さん:
好都合だったのは、飛沫パーテーションがつくられるようになって一時アクリル板が日本中からなくなったときでも、うちは困ることがなかったことです。
通常、皆さんは5-7mmにカットしたアクリル板をパーテーションに使います。ところがうちは、フレームがあるから2mmの厚さで足りるんです。
だれも使わないし、アクリル板は1mmごとに値段が2倍、3倍と上がっていくので、2mmだと材料費が安くすみます。フレームがついて高級に見える割にはコストが同じ、というからくりで、しかも畳んだりできます。
中谷:
すごいですね!ほかがやらないところに目をつけ、しかもコストも安いという…。
大湊さん:
折り畳みできるバージョンも、人とのつながりから生まれました。あるとき、『モノ・マガジン』の土居編集長が来て、「大湊さん、飛沫防止パーテーション面白いね、見せて」と。
出してあげたら、「一面だけのついたてはどこにでもあるから、折り畳みができる屏風がいいよね」と。そう言われてつくったものを『モノ・マガジン』に掲載していただき、たちまち人気になりました。
そういう人とのつながりから、思いがけないものが生まれるんですね。
大湊さんのところから数々のヒット商品が生まれる理由が、わかってきた気がします!
中谷:
コロナ禍の2年目はどうされたのですか?
大湊さん:
2年目は、「空間清浄器」で乗り切りました。普通、「空気清浄器」はフィルターを通して空気を浄化しますが、マイナスイオンやオゾンを発生させて殺菌するという方法もあります。
そういう空間清浄器をつくるメーカーと知り合い、自衛隊の艦船の中に入れるものをつくりました。
大湊さん:
潜水艦などは密閉空間だから、空気感染の危険があるでしょう?それで、空気清浄器が導入されることになった際に、「金属製よりも木の方が心が安らぐ」ということで、ボディを国内産の木材でつくる国内メーカーの募集がありました。
かなりのエントリーがあった中でうちが勝ち、2年目はそれで乗り切りました。
中谷:
すごいですね!数多くのエントリーから勝ち抜かれたというのが、やはり実力ですね。
大湊さん:
3年目になって国の補助金が終わり、次のヒット商品が生まれないままなので、今年は何か考えなければいけないのですが(笑)。
中谷:
コロナもようやく終息を迎えそうですが、コロナ後の伝統工芸界に必要なことは何だと思いますか?
大湊さん:
伝統工芸では、今後、製造と販売を分けて行った方がいいと思います。私自身も職人ではないし、父も祖父も経営の方を担当していました。うちの場合、社長はトータルコーディネーターという位置づけです。
中谷:
製造と販売を一人で行うのは難しいですよね。まず、時間が足りませんよね。
大湊さん:
分けなければ、この先残っていくのは難しいと思いますよ。
親子一子相伝で、1年に何個かつくれば食べていけるだけの伝統工芸であればそれでいいと思います。でも最低限、材料費と加工費と道具代、場所の維持費がいります。
どんな名匠でも、裸で無一文では何もつくれない。お金をどう介在させるかが問題だと思います。
中谷:
ほかにはどんなことが必要だと思いますか?
大湊さん:
伝統工芸では、つくるための「技術を残す」ことが大切で、「何をつくるか」についてはお客様のニーズに合ったものをつくらなければ、生き残っていけないと思います。
私は子供のころから工場が遊び場で、職人さんもたくさん見てきました。職人さんは、自分の考えをしっかり持っていらっしゃる方が多い。でも、目線がお客さんに向いていない場合も多いと思います。
中谷:
質の良いものをつくることは大切ですが、お客様が求めているものかどうかも考えなければいけないのですね。
大湊さん:
受け継いだ技術を大事に残しながら、「今の目線で何が求められているかを見極める力」があるかどうか、それが失敗と成功の分かれ目になると思います。
中谷:
「後継者を育てる」というのも、伝統工芸界の抱える大きな課題ですよね。
大湊さん:
私の祖父も父も、パトロンとして絵描きを養成するためにお金を出していました。
私も書家の子にうちでアルバイトさせながら書をやらせていたのですが、あるとき「独立する」と言うので、「独立する覚悟があるということは、食べていけない覚悟もあるんだろうな」という話をしたことがあります。
「作品が売れるようになるまで、忍耐する覚悟があるのなら独立すればいいし、するなら応援はしてあげるけど」と言って、師範の資格を取るまでは応援してあげましたが、師範の資格を取ったから食べていけるわけではないので。
中谷:
厳しい世界ですね…。
大湊さん:
アーティストも厳しいけれど、その次に厳しいのが伝統工芸の職人さんじゃないでしょうか。そのぐらいの気持ちを持った方がいいと思います。
持たないのなら、私のようにコーディネーターがいるところで技術を習得して、それを使うというのが安全なんじゃないでしょうか。
うちも二人くらい独立して木工作家になったのもいるけれど、最初の2,3年は材料が買えないので、「すみません、材料分けてください」とか、よく来ていましたよ。
中谷:
継続して食べていく、というのは相当大変なことなんですね。
大湊さん:
ものつくるのは、だれにでもつくれます。つくったものを、お金に変えられるかどうかでしょうね。それと、「作品」と「商品」を自分で区別できる人でないとやっていけないと思います。
中谷:
なかなかそれができる人は、いないでしょうね。
大湊さん:
うちの工場長はできるんですよ。「製造原価このくらいでこんな商品どうですか」とか、「工場の生産効率を上げるには」などの案を毎週持ってきます。
もともと国家認定の建具と家具の技能師の資格を持っていたのを、本人が「やりたい」と言うので、会社が全額出してその上を取らせました。「バックアップするよ」と。
資格を取ったらその分、手当も出します。その代わり、それを会社に反映させてくれればいいので。
次世代を担う方々に常に投資され、後継者を大切に育てられているからこそ、確かな技術が継承され、いざというときにチャンスをつかめるのですね!
中谷:
大湊さんの商品は、「こういうものが欲しかった!」という、使う人のニーズにぴったり合ったものが多いですよね。
大湊さん:
ありがとうございます(笑)。でも、うちも決して順風満帆で来たわけではないんですよ。私は大学を卒業後に帰郷して会社に入りましたが、当時は経営は火の車でした。
でも偶然そのころ通信販売というのが始まり、父もそちらに参入したら、1万円の屏風に1ヵ月3,000本注文が入って。それで新しく機械も設置し、商売を立て直しました。
流通が変わる時代で、以前は問屋さんや家具屋さんと取引していたのが、百貨店相手に変わるときでした。父はもともと、ものづくりではなく経理や数字に明るい人だったので、その時代の先駆けに乗れたんでしょうね。
中谷:
お父様も時代を見る目がすごいですね。いきなり通販で3,000本とは、多いですよね!
大湊さん:
何も目新しいものを売ったわけではなく、唯一の新しいものは障子を貼った屏風くらいでした。
昔は冬は金屏風や山水などを描いた表装屏風、夏は竹の簾(すだれ)とか琵琶湖の葦(よし)を貼った屏風、と言う風に一年間のうち冬、夏、冬、夏の繰り返しで商品が出ていました。
その間の季節に使うものとして、障子のパーテーションを発売したのがうちの父なんです。
中谷:
それまではなかったのですか?
大湊さん:
なかったんです。父は歴史や写真が趣味で、桂離宮など大好きなんですが、桂離宮は洋風の部屋でもレースのカーテンではなく、障子を使っています。それを見て「障子を屏風にすればいいのでは」と思ったんですね。
和洋折衷が流行したころで、戸はサッシ、居間が洋風リビングに変わったりしていました。それで、和洋両方に使える屏風スタイルの障子が受けたのでしょうね。
中谷:
「持っている技術で時代のニーズに合ったものをつくる」ということを、お父様もされていたのですね!
中谷:
「ニーズ」を探るための工夫というのは、何かされていますか?
大湊さん:
考えてみるとうちの事務所って、毎日いろいろな人が出入りしていたんですよね。たとえば問屋の番頭さんたちが出張から帰ってくると、「今回〇〇県に行ってきたんだよ」「そこでこんなのがあってね」という風に、いつも茶のみ話で語ってくれました。
こちらからも番頭さんに、「こんなのつくったんだけれど、今度行くときこれ持って行って」などと頼み、お客様に見せてもらったりして。
そんなところから商品が生まれてたんじゃないかと思います。人と人とのコミュニケーションは、茶のみ話から始まるんですよ。
中谷:
大湊さんご自身もとてもオープンで、いろいろな人や物事に対して開かれている方だな、という印象を受けます。
大湊さん:
「よくしゃべるほうだ」と言われるけれど、「聞きたいからしゃべるんだよ」と言っています。コミュニケーション、会話のキャッチボールが大切だと思っています。
大湊さん:
それからよく覚えているのは、私の結婚式のときに来賓として来てくださった某銀行の経済研究所の所長さんの話です。
「これから東京に行くときは、時間があったら山の手線に乗って2,3周しなさい」と言われました。
中谷:
なぜでしょう?
大湊さん:
私も不思議に思って、「どこの駅に何があるかは大体知っていますよ」と言ったら、そういうことではなくて、自分は降りなくていいから、どこの駅からどういう客層の人が乗ってくるのか見ておきなさい、ということだったんです。
男性か女性か、家族連れかビジネスマンか、またその人はどういうものを手に持っているのか、ビジネスバックなのか、ショッピングバックなのか、そういうのを一日のうちで2,3回山の手線で回って見てきなさい、と。
あとは、「時間があれば百貨店を上から下まで歩きなさい」とも言われました。
朝行ったとき、夕方行ったとき、どういう人が何を買っているのかを見ておくと、あとでものづくりのヒントに必ずなるから、と言われて「なるほど」と思いました。
それから東京に行っては言われた通りに山手線に乗ったり、百貨店に行ったりしましたよ。「あの先生すごかったな」と思います。
確かに、「どんな人がどんなものをどこで買うのか」を知ることは、ものづくりをする際にヒントになりそうですね!
中谷:
コロナ後の伝統工芸では、海外への販売もテーマになると思うのですが、インバウンドなど期待できそうですか?
大湊さん:
中国の上海に高級陶器・マイセンのアジア代理店もやっている非常にリッチな会社があるのですが、そこが毎年、南部鉄器と槌起銅器を買い付けに来ます。
槌起銅器では、伝統工芸の技を用いて時代や国に合ったもの、たとえば日本は緑茶だけれどイギリスは紅茶、アメリカはコーヒーなので、それに合わせたポットなどを先駆けてつくりました。
「技術をどう使うか」「器の形はどうか」「容量をどうするか」など、相手の国に合わせて考えたんですね。
中谷:
インバウンドでも、「相手のニーズに合わせたものを考えてつくる」というのが大切なんですね。
大湊さん:
インバウンドの方は勉強して来られる方が多いんです。その上で、「伝統の技術を使っているけど、現代の生活で自分が使えるものを買いたい」と思っています。ただ古ければいい、というものじゃないんです。
中谷:
海外の展示会などはどうですか?
大湊さん:
3年前にフランスのメゾン・エ・オブジェに出展した際は、経産省の補助金があったので、デザインのためにエルメスのデザイナーを3人雇いました。ドイツのアンビエンテにも出展しましたよ。
メゾン・エ・オブジェ
フランスのパリで1年に2回、1月と9月に開催される、世界最大級のインテリア・デザイン関連の見本市。
アンビエンテ
ドイツのフランクフルトで毎年2月に開催される、世界最大級の消費財見本市。インテリア、キッチン用品、ギフト用品などあらゆる消費財のメーカーやデザイナー、バイヤーが世界中から集まる。
中谷:
海外の展示会に出られて気が付かれたことはありますか?
大湊さん:
屏風は珍しい日本の文化として喜ばれるけれど、実際に買ってくれるかというと話は別で、フランスとやドイツの住宅事情を見ると、実は「置く場所がない」ということに気付きました。
ヨーロッパなど文化や歴史のある国は、ベッドルーム、リビング、ダイニングと生活の用途に合わせて部屋がすべて分かれています。それぞれの部屋は狭いので、装飾品は壁に埋め込んだり飾り棚があったりという形で、フロアーに大きなものは置きません。実際に行ってみて始めてわかりました。
中谷:
展示会に行かれただけで、それがわかるなんてすごいですね!
大湊さん:
私はどこの国に行っても、その国の生活が見たいので、展示会などでお世話になった通訳さんの家に遊びに行かせてもらうんです。それで見てみて、「ヨーロッパで屏風売るとしたら、普通のルートでは売れないな」と思いました。
中谷:
海外向けと言えば、大湊さんが特注でつくられているコンパクトな組み立て式和室、いいですよね!外国の日本ファンの方も欲しいのではと思います。部屋の一角を一瞬で和の空間に変えられますよね!
大湊さん:
イギリス、ドイツ、ハワイでも売れましたよ。全部ジョイントになっているので、ビスなどを打つ必要がなく、日本では壁に釘などを打てない賃貸マンションもターゲットにしています。
凄いアイディアですよね!
屏風自体がたたんで隙間に入れておけるから、同じですよね。
中谷:
ほかに、海外での販売に関して思われることはありますか?
大湊さん:
「だれに何を売りたいか」を決めるのが大切だと思います。
これまで、「日本の伝統工芸品で良いものですよ」と海外の展示会に持っていっても、「日本のものはいいですね」と言われるだけで結局は全然売れない、という失敗を繰り返してきましたので。
中谷:
ターゲットを絞る際には、どういう点に気を付けたらいいのでしょうか?
大湊さん:
文化の違いを理解することが大切ですね。たとえば私たちは木の製品を扱っていますが、木で難しいのは、ヨーロッパと日本で木の種類が違いすぎるところです。
ヨーロッパはハードウッド、堅い木で、逆に日本は全部柔らかい木であり、質感や風合いが全然違います。また、日本では檜(ひのき)は高級ですが、外国人はまったく喜びません。ヨーロッパの木材は香りが少ないですが、その代わり硬くて丈夫で、何代にもわたって修理して使えます。
「木」というカテゴリーは同じでも、文化によって使い方が違うんですね。
中谷:
ヨーロッパには古い木造りの家がたくさん残っていますが、ぼろぼろの柱を修理しつつ、使っているようですね。
大湊さん:
日本の塗装はお化粧のように表面をきれいにするためですが、ヨーロッパの塗装は保護剤で、木を保護するために塗り込みます。そういう文化の違いをわかっていないと、海外ではものが売れないと思います。
中谷:
海外ではどんなものを販売したいと考えられていますか?
大湊さん:
組子をメインにしたいと思っています。組子の原点は幾何学模様で、幾何学って世界中にありますからね。
中谷:
組子の行灯やライト、とても素敵ですよね!
大湊さん:
光の漏れ方とか、あれが日本の文化です。でも今は、間接照明の使い方は欧米人の方が日本人よりもうまいですね。そこに行灯がビンゴで当たりで、海外でも人気です。
「和のものだから」というのではなくて、ニーズに合ったんですね。
大湊さん:
ヨーロッパでは、浮世絵にすごく人気があるでしょう?それで、上野の森美術館に頼まれて、組子と浮世絵のコラボの屏風をつくりました。パリのジャパンエキスポに出すためのもので、人間国宝の手摺りの和紙を使っています。
ヨーロッパの人たちも、組子とか浮世絵のホンモノを見たがっているので、市場はあると思います。
浮世絵のアンティークも受けるでしょうけれど、これは新しい感じでいいですね!
見た目でわからないかもしれないけれど、実は日本の伝統の技術が活かされていて長い間使える、そういう商品をつくりたいと思います。
中谷:
では最後に、これから大湊文吉商店として目指すところは何ですか?
大湊さん:
会社の今の方針は「原点回帰」です。これまでは私が情報を集めて企画・テザインをやっていたけれど、今、一切仕掛けをやめて、「ニーズを形にする」に徹しようかと。
昔は町に建具屋さんがいて、頼まれたものをつくっていた。そういう形に戻ろうと思いました。お声がかかったらそれに持っている知識や情報を出し、キャッチボールでやりとりしてつくる。そんな風に今の技術を生かそうと。
中谷:
そういう方針になってから、どのような変化がありましたか?
大湊さん:
良い点は、在庫を持たなくていいことです。私たちは永久保証、つまり「規格品で収めたものは一生直す」というポリシーを持っています。だから、定番品は全部、修理できるようにパーツも取っておきます。オーダー品にすると、そういうパーツの在庫をずいぶん減らせます。
今までは拡大路線でしたが、年商を落として利益は残すという風にしていかないと、うちも含めて中小企業メーカーがこれから生き残るのは難しいのでは、と思います。
中谷:
これから大湊さんがつくってみたいものはありますか?
大湊さん:
屏風のいろいろなバリエーションをつくってみたいと思っています。今までのウルトラマンなどに代わる、表装のテーマを探しているところです。
そのほかでは、屏風を身近な生活の中で活用する方法を考えて、紹介したいと思います。
たとえばうちの商品で、花の後ろに置く金屏風がありますが、ミニ盆栽作家さんや苔玉作家さんなどにそういう屏風を提供して、使い方をFBにアップしてもらったりしています。
私はつくる方で使い方まで頭が回らないので、カッコイイ使い方をしてもらってそれをもっと広げていきたいな、と思います。
大湊さん:
それから自社に、修学旅行の生徒さんや団体さんがよく来るので、ワークショップができるオープンな空間もつくりたいですね。
ショップがあって、ワークショップもできて、工場見学もできるようにしたいです。どんどんいろいろな人に来て欲しいですね。
コロナ後の伝統工芸に関わる方へのエールとして、「人の話を聞いて、外を見る」ことが大切、とお答えくださった大湊さん。
「今はインターネットで情報検索ができるけれど、町の中を歩いたりお客様と会話をしたり、そういうリアルから生まれることがとても大切」ということです。
いろいろな人やモノ・コトとの触れ合いの中で、新しい発想が生まれ、ニーズに合った良いものが生まれていく。
まさに大湊さんのやっていらっしゃることだと思いました。
常にオープンで努力を絶やさない大湊さんの、今後のご活躍を楽しみにしています!
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