本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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京都市内に工房を構え、オーダーメイドの建具や家具を製造する一方で、3D加工機を用いたユニークな製品も手がける山田木工所。
ものづくりだけではなく、障がい者雇用にも積極的に取り組まれています。
今回は代表の山田正志さんに、障がい者雇用の実際や、障がい者雇用を始める際に大切なこと、またものづくり現場でのこれからの可能性などについて伺います。
有限会社 山田木工所
京都市にて昭和20年創業。木製建具・家具を中心にさまざまな木製品を製作。創業より培ってきた木工技術に3D加工機・レーザー加工機など最先端テクノロジーを織り交ぜながら、新しい木工製品を生み出し「幸せ」を提供することを目指す。障がい者雇用を積極的に推進し、知事表彰を受ける。
ライター中谷:
障がい者雇用を始められたきっかけは何でしたか?
山田さん:
私の子供が障がいを持っており、その子が生まれたのがきっかけです。「子供に将来自立をして欲しい」という親の願いから、「そのためには自分の会社でも障がい者の方を雇用できるようにしなければ」と考え、障がい者雇用に踏み切りました。
ライター中谷:
どのような段階を踏んで雇用を始められましたか?
山田さん:
本格的な雇用を始める前から、「実習」というのを行っていました。さまざまな方に来ていただいたのですが、障がい者の方にも、就労移行支援事業所という障がい者の支援機関からの紹介で来ていただくことになりました。2週間から一ヵ月程度の実習を行い、うまくいくようであれば雇用、という形で行いました。
ライター中谷:
障がい者の方を実習に受け入れられて、いかがでしたか?
山田さん:
うちの仕事はオーダーメイドでものを作るので、毎日、作業内容が違います。それが覚えられなかったり、教える人によってやり方が違ったりすると、「前に教わったのとは違う」とパニックになる人もいました。また、刃物がぶんぶん回っている職場なので、「怪我をする危険があるのでは」とお断りしたこともありました。
ライター中谷:
その中でも、最終的には雇用につながっていったのですね。
山田さん:
「工房で障がいのある方が働くのは危ないのでは」と一度は思ったものの、危ない仕事というのは、誰がやっても危ないんです。だから、危険察知能力の高い人、怖がりの人の方が向いているということなんですね。
それなら、障害があるなしにかかわらず、その人の特性により、「向いていればその仕事ができる。なければ違う仕事を探す」ということでいいのでは、と考えました。
ライター中谷:
現在、障がい者の方は何人職場で働かれているのですか?
山田さん:
うちで仕事に従事している9人のうち、2人が障がい者雇用で来られました。もう6~7年働かれています。
ライター中谷:
それぞれどのような仕事をされているのですか?
山田さん:
一人は発達障がいがあり、パソコンが使えるので、3D加工を担当してもらっています。3次元キャドで描かれた図面のデータを加工データに変換してプログラムを組む作業から、木をセットして機械を動かし商品を成形、その後研磨をして塗装、梱包して発送、という作業をやってくれます。
ライター中谷:
多岐にわたる仕事をされているのですね!
山田さん:
3D加工の場合、作るものは違っても工程がいっしょなので、スムーズに覚えてくれます。
もう一人は発達障がいと精神障がいを持っていて、ルーティン作業は得意だけれど、計算や考えは苦手です。だからそういう作業にならないように、わかりやすい形で仕事を分けて、なるべくストレスがない形になるように工夫しています。
ライター中谷:
お二人ともフルタイムで働かれているのですか?
山田さん:
最初の子がフルタイム、もう一人は半日です。発達障がいと精神障がいのある子は、ちょっとしたきっかけでうつに陥ってしまうので、様子を見ながら、調子が悪くなってしまったら1~2カ月休んでもらうというように、無理のないようにしています。でも最近は調子がいいので、「もう少し勤務時間を延ばそうか」と話をしています。
ライター中谷:
アドバイザー制度などはありますか?
山田さん:
アドバイザー制度はありませんが、ご紹介いただいた就労移行支援事業所のご厚意で毎月1回様子を見に来ていただき、当事者、支援者、弊社3者でお話しする機会をいただいております。「今月はどうだったか」「どこが大変なところはなかったか」など、丁寧に話をしながら進めています。
身近では他に、障がい者雇用をされている方はいらっしゃいますか?
農業の方や建材屋さん、花屋さんなどがいらっしゃいますね。
ライター中谷:
これから障がい者雇用を考える場合、大切なことはありますか?
山田さん:
来る方によっても対応が変わりますし、課題がたくさん出てきますが、それに対してあきらめないことが大切だと思います。「フルタイムじゃなくてはだめ」というのではなく、「1時間でもいいよ」「昼からでもいいよ」など、その人にあわせてルールを替えたりすればいいんですね。
ライター中谷:
障がい者雇用には、職場の方の理解が大切でしょうね。
山田さん:
うちの会社の場合は、反対されることはありませんでした。反対意見が多くて、「なんでそんなことをしなければいけないの」となったら、調節するのは難しいかもしれません。でも、スタートしてしまえば意外と大丈夫で、時間とともに皆、受け入れてくれると思います。
ライター中谷:
障がい者の方が身近にいない人は、どうなるのかイメージするのが難しいのかもしれませんね。
山田さん:
知らないから、「誰が来るんだ」「とうなっていくんだ」というような、漠然とした不安を抱くんでしょうね。でも実際に来てみたら、「意外と大丈夫みたい」とか、「この子ならやっていけそう」となっていくと思います。
その人によって、できることとできないことを把握したら、得意なことに集中して仕事を持っていくようにすれば、あまり問題はないはずです。そのことをうちの従業員は理解してくれています。
ライター中谷:
障がい者の方をよく理解するために、大切なことは何だと思いますか?
山田さん:
うちが大事にしているのは、「弱みを見せあう」ということです。皆苦手なことって、ありますよね。嫌いなことや、できないこととか。実はボールを投げるのが下手とか、むちゃくちゃ変な走り方するとか(笑)。「こういうのは苦手」というのを社員同士で共有し、弱みを見せあうようにしています。
ライター中谷:
どんな方法で?
山田さん:
新しい人が来たら、自分の弱みを紙に書いて、会議の中で一人ずつそれを紹介し合うことにしています。
例えば障害がある人の中には、「音が全部同じように聞こえる」という人がいます。そういう人が喫茶店などに行ったら、目の前の人と隣の人が同じ音量で話しているように聞こえて、何をしゃべっているかわからなくなります。そのことが理解できたら「そういう風にならないようにしようね」となる。でも理解しなかったら、「あいつには何を言っても話がわからない」とか、「人の話を聞かない」となってしまいます。
ライター中谷:
相手を理解したら、どういう対応をしたら良いかわかるようになりますね。
山田さん:
そうなんです。ちゃんとその人を理解をしてあげると、話が通じるようになります。それが認め合うということだと思います。それを皆理解しているので、「あの人と話すときは、ものに書いて」など、自然に工夫するようになってきています。
障がいがあってもなくても、誰でも弱いところがありますよね。
弱みを見せることで、お互いに認め合え、わかり合える。そこでいい人間関係が築けるのかな、と思っています。
ライター中谷:
国の支援は充実していますか?
山田さん:
実習のための支援や、雇用が始まった際の特定求職者雇用開発助成金などがあります。後者では3年間、給料の約半分を補助してもらうので、雇用の開始がスムーズにできます。
特定求職者雇用開発助成金
就職が困難と思われる高年齢者や障害者、母子家庭の母等を雇用する事業主に対して、一定条件下で支給される助成金。いくつかの区分があり、1~3年間、数十万~200万円強支給される。
ライター中谷:
では、支援は比較的充実しているのですね。
山田さん:
金銭的には助かっている部分もありますが、国に対する要望は色々あります。
例えば頑張ったら最低賃金以上稼げる人だったら雇用される可能性も多いと思いますが、どうしても難しい方もいらっしゃる。その場合は、障がい者の方だけが集まる作業所などで作業できますが、でも、そういう人が一般企業に入らないと、世の中良くならないのではないか、という気がします。
ライター中谷:
そのためにはどんな支援があればいいと思いますか?
山田さん:
「1時間に100円しか稼げない人に1,000円出せるか」と言われたら出せません。そういう部分に国が援助するとか、逆に最低賃金以下でも雇用していいとか、国はもう少し考えなければいけないと思います。
ライター中谷:
特定の割合で障がい者の方を雇用する制度もありますよね?
山田さん:
障害者雇用率制度では2.3%雇用というのが義務付けられています。そういう試みはあるけれど、最低賃金を稼げる人しか雇ってもらえなかったり、大企業だと障がい者だけを集めて特定子会社を作り、グループ全体で障害者雇用率を達成するとかいうことがあります。
でも、いっしょに仕事をすることによって、他の人や会社にとって良いことを見つけられると思うので、分けてしまわずいっしょに働ける方法を考えるべきだと思います。
障害者雇用率制度
従業員が一定数以上の規模の事業主が、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があることを定める制度。民間企業の法定雇用率は2.3%で、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用する義務がある。
ライター中谷:
一般企業に雇用されない場合は、どのような形態があるのですか?
山田さん:
就労継続支援A型・B型の2種類があり、A型は雇用契約をするので、最低賃金が払われます。B型は軽作業や就労訓練などを行うのですが、毎日行っても月に1万いくらの工賃しかもらえません。
ご家族にしたら、「行くところがないよりはまし」と思われるかもしれないし、本人は1万いくらかもらえ、更に障害年金というのが国からもらえるので8~9万円くらいの収入にはなりますが、人としての生活を考えた時、「もっと何かいい形があるのでは」と思います。
ライター中谷:
障がい者雇用をされたことで、得られたことは何だと思いますか?
山田さん:
障がい者の人が働きやすい環境を考えることによって、職場全体が柔軟にフレキシブルに、それぞれの人に対して働きやすい環境になりつつあるのを感じます。みんなが優しくなりましたね。
ライター中谷:
障がい者の方だけでなく、職場の方皆にとっても、働きやすくなったのですね!
山田さん:
また、仕事の効率が上がります。「障がいのある人を雇ったら、仕事の効率が下がるのでは?」とよく聞かれるのですが、作業を細分化して、できることを集めてその人に持っていくので、作業を見直すことになり、無駄な部分がなくなっていきます。
ライター中谷:
障がい者雇用をされて、嬉しかったことは何ですか?
山田さん:
うちの漆塗りのワイングラスは、発達障害のある子が一から作ったものです。そのワイングラスが2021年の京都インターナショナルギフトショーでおみやげグランプリを受賞した時は、とても嬉しかったです。
働くところがなかった人が、一生懸命働いて、障がい者という色目なしでそういう賞をいただいた。本当に良かったと思います。
ライター中谷:
ものづくりの現場で、障がい者の方が活躍できる可能性は大きいと思いますか?
山田さん:
伝統工芸では、地味な作業をひたすら繰り返したり、突き詰めて行う作業が多いと思います。人によりますが、障がい者の方には同じことを同じリズムでやり続けることができる方が多いので、伝統工芸で向いている作業はたくさんあると思います。
ライター中谷:
障がい者雇用はこれからどうあるべきと思いますか?
山田さん:
これからは障害があってもなくても、誰もが働いて活躍できる場所を作っていかなければならないのでは、と思います。人のために働いて、ほめてもらって、「やっぱりお前がいてくれなきゃだめだ」と言われたら、誰でも嬉しいでしょう?私も、ものを作ってお客さんに褒めてもらったり、お礼の手紙をもらったら、一生の宝物にするくらい嬉しいです。
同じように、障害のある子も、気持ちがあります。それをちゃんと形にできる場所を、個人的にも、国や行政でも、作っていかなければならないのでは、と思います。
今後も機会があれば障がい者の方を採用されたいですか?
障がい者の方に限らず、色々な方がいらっしゃるので、そういう方達を雇用していければと思っています。
「障がいがあってもなくても、誰もが働いて活躍できる場所を作っていかなければ」とおっしゃり、それを実践されている山田さん。
そんな山田さんのものづくりは、商品にも表れています。
3Dで製作される「木の幸」シリーズは、ユニークかつスタイリッシュで素敵なものばかり。
さまざまな方が個性を生かし合い、支え合う山田さんの工房から、これからも素敵な作品が生まれるのを楽しみにしています!
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