裏か表か?「羽裏」の洒落心をモダンな製品に蘇らせる、「MAJIKAO」の自由な発想

本記事の制作体制

熊田 貴行

BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。

ライター中谷
ライター中谷

皆さんは、「羽裏」という言葉を知っていますか?

表からは見えない羽織の裏に、あっと驚くような豪華な絵柄を忍ばせてお洒落を楽しむ。

そんな粋な風習である「羽裏」の伝統柄に新たな息を吹きかけ、キャップやスニーカーなどモダンな製品に蘇らせているのが、株式会社MAJIKAOの代表・岡島大策さんです。

他業種から家業である京友禅の老舗「岡重」に戻り、新たなブランドを立ち上げた岡島さんに、伝統を生かしつつ時代に合った商品を生み出すための発想の秘訣を伺います。

赤いスニーカーをはいた足元の写真

参考

株式会社 MAJIKAO
2019年11月発足。150年以上続く京友禅の老舗「岡重」が明治時代から所蔵する約500点以上の羽裏柄をデザインソースとし、現代にも通じる粋でモダンな羽裏柄を基に付加価値の高いもの作りを展開。

目次

ポップアートみたい!「羽裏」柄の魅力!

「羽裏」とは?

ライター中谷:
「羽裏」とは、何のことですか?

岡島さん:
読んで字のごとく、「羽織」の「裏」のことです。羽織を着た時、表からは見えない裏地のことを指して「羽裏」と言います。

江戸時代末期くらいから男性は羽織を着るという文化が定着しましたが、幕府からの贅沢禁止令などもあって、表地は真っ黒や無地などしか使えませんでした。そこで、「表が地味な分、裏地は派手にしてファッションを楽しもう」という発想から生まれたのが「羽裏」です。

2種類の生地の写真

ライター中谷
ライター中谷

「羽裏」は男性用だけだったのですか?

岡島さん
岡島さん

時代とともに、女性が好むような柄も増えていったようです。

岡重の「羽裏」柄の魅力

ライター中谷:
「MAJIKAO」のテキスタイルは、親会社である京友禅の老舗「岡重」の所蔵する「羽裏」柄を基にしていますよね。岡重の「羽裏」柄の魅力とは何ですか?

岡島さん:
うちの強みは、約500点と、テキスタイルデザインを非常に多く持っているところです。しかも、どこにでもあるような柄ではなく、少しアートよりの個性的な図案が多いのが特徴です。

モダンな模様のキャンバスの写真

ライター中谷:
「岡重」では創業当初から「羽裏」を作られていたのですか?

岡島さん:
私は5代目になりますが、曽祖父に当たる2代目当主の岡島重助という人物が、色々なところから図案を集めて「羽裏」に転換して商いにした、と聞いています。

ライター中谷:
図案が本当にモダンですよね!明治から大正時代ということで驚きますが、代々当主の方は、西洋絵画に興味がある方が多かったのですか?

岡島さん:
アートに興味を持っている人は多かったと思います。代ごとにやっていることは、でも全然違いますね。初代は、もともと酒造を商売にしていたんです。

当時、染色加工はまだ盛んではなかったのですが、ドイツのバイエルンで化学染料が発明されると、初代は「呉服の世界にも浸透してくるだろう」と見越していち早く染料を輸入し、染色加工を始めました。1850年代の話です。化学染料によって、色の表現が増え、色彩豊かな着物が作れるようになりました。

ライター中谷:
酒造りから呉服へとは、まったく違う分野に方向転換されたのですね!

岡島さん:
今の社長である4代目は更紗など、「羽裏」以外のテキスタイルを作りました。それぞれの代でもの作りに対する思想は異なりますが、代ごとに新たなもの作りを行うベンチャー精神を持っているのではないかと思います。

「羽裏」柄を表舞台に!モダンなグッズの誕生

老舗のテキスタイルに新たな光を!

ライター中谷:
岡島さんは自転車がご趣味で、最初は自転車関連の会社に就職されたのですよね?どうして家業に戻ろうと思われたのですか?

岡島さん:
家業というのとは関係なしに、「岡重」の持っているテキスタイルには昔から興味があり、素晴らしいものだと思っていました。それらのテキスタイルを「何か違う形で日の当たる場所に持っていきたい」「呉服とは別のアイテムに転換してものづくりができないか」という思いをずっと抱いていたのですが、その思いが日増しに強くなり、戻ってきた次第です。

ライター中谷:
そこから、自転車アイテムなどのモダンなグッズが誕生したのですね!500種類ほどある「羽裏」柄から、どういう基準で「MAJIKAO」の商品に使う柄を選ばれるのですか?

自転車、人物、テープ、キャップの写真

岡島さん:
基本的には目に留まったもの、個人的に良いな、と思ったものを選んでいます。これまで「岡重」で使っていなかったものも、今着物として使っているものもあります。

ライター中谷:
柄をコンピュータでスキャンしたりして商品化されるのですか?

岡島さん:
柄はそもそも色ごとに型があり、型を使って染めていきます。それぞれの職人で行う工程は異なりますが、型染めだけで言うと約10工程あり、そのほとんどが職人の手作業によるものです。

ライター中谷:
細やかな京友禅の型染めの手法で行われるのですね!布の素材はシルクなのですか?

岡島さん:
染めの可能性は無限大です。綿はもちろん、ポリエステルや、場合によっては紙にも染めることができるので、シルク素材のみならず、素材探しは常に行うようにしています。

自転車グッズやスニーカーから「羽裏」の原点へ

ライター中谷:
「MAJIKAO」さんの最初のグッズは自転車関連のものですよね。

岡島さん:
はい。自転車用のバーテープやキャップから始まりました。今一番新しいものは、「TABIRA」という「羽裏」柄を使った足袋型のスニーカーです。

黒いスニーカーの足元の写真

ライター中谷:
これからも、自転車グッズなどを増やしていかれますか?

岡島さん:
自転車という括り一つだけでもの作りをしようとは考えておりませんが、もう少し普段のライフスタイルに合ったもの作りをしようとは考えています。

ライター中谷:
具体的にはどういうものを考えられていますか?

岡島さん:
「羽裏」の使い方をもう一度見直そうとしているところです。これまでは「羽裏」柄を表に出す形で商品にしていましたが、「羽裏」のルーツを考えると、柄を前面に出すのではなく、表からあまり見えない部分に使うべきなのではないか、と思うようになって。そこで、「原点に立ち戻ろう」と、今思案しているところです。

時代に合った商品を生み出すには?

芯はブレずに、前向きな方向性で

ライター中谷:
生活様式の変化に伴い、伝統工芸を次世代に伝えるのが難しくなっていると思います。「着物」も着る方が減っていると思いますが、今後はどのようにしていくべきだと思われますか?

岡島さん:
着物に限らず、「岡重」では代ごとに何か新しいことに取り組んできました。今までやってきた商いにしがみつくのではなく、新しい取り組みを行い、前向きな方向性で挑んでいかないと、これからの時代は更に厳しいと思います。

今、和装離れが進んでいる中で何ができるかと考えた時、弊社の場合は、「羽裏」の図案、テキスタイルを持っているというところが一番の強みだと思います。そこの芯だけはブレずにやっていきたいと思っています。また、次の代になった時に「こんな柄を当時作っていたんだ」と言ってもらえるような図案、新しいテキスタイルも生み出してみたいです。

着物の柄の見本帳の写真

ライター中谷:
着物を残すためには、着物を伝統の技法で作り続ける職人さんを残さなければいけないし、一つの会社ではできないことですよね。

岡島さん:
そうですね、着物自体はなくならないだろうと思いますが、弊社だけが業界を変えようとしても難しいところで、全体が今、マーケットに対して疑問を持ち、協力し合って動いていかなければいけないと思います

ライター中谷:
着物の場合、高価であるところが難しいですね。でも、ちゃんとしたものを残そうと思ったら、昔通りに手をかけて作らなければいけないのだろうと思います。ちなみに、お手頃な価格帯のものを作ろうと考えられることはありますか?

岡島さん:
需要がどれくらいあるか、マーケットとして見なければいけないと思います。私自身、着物は嫌いではないですが、あまり着たいと思うことがないんです。そういう意味では、自分が着てみたいと思うものを作ったらいいのかな、と思います。

ライター中谷:
例えばどのようなものをイメージされていますか?

岡島さん:
羽織を一度、作ってみたいと思っています。日常のファッションで着られるようなものとして、現代に合ったような素材、例えばジャージ素材を用いたり、形もオーバーサイズにしたり。

ライター中谷:
羽織は可能性がありそうですね!海外でも「ジャパニーズローブ」として、着物よりも使いやすいアイテムして人気なようですね。

岡島さん:
着物を着てみたい人はいても、着付けのハードルが高い、というのもあると思います。羽織は逆に、羽織るだけなので、着物を身近にするためのハードルが一つ除かれるかな、と思っています。

「伝統」「日本っぽい」に留まらないアプローチ

ライター中谷:
「MAJIKAO」の商品がまさにそうだと思うのですが、伝統を生かしつつ時代に合った商品を生み出すには、何が大切だと思われますか?

岡島さん:
最初から歴史的背景を前面に出すのではなく、商品を気に入って買ってから歴史的背景を知り興味を持つ、という風にできたらと思っています。「伝統」とか「歴史的背景」をあまり強調しすぎると、「ありがちのやつね」と思われてしまう恐れがあます。

だから、例えばうちのバーテープなどはコットンの柄物テープなんですが、「テキスタイルの柄が面白いな」と買っていただき、その後で「あ、こんな歴史的背景があったんだ」と気付いて興味を持っていただくとか、そういうい裾野の拡げ方が肝心なのでは、と思っています。

4種類の布テープの写真

ライター中谷:
「伝統」という言葉が重くて、実は使いやすい良いものを見逃していたら、もったいないですよね。「現代の生活で使えるカッコイイもの」であれば、海外の人にも受け入れられそうですね。

岡島さん:
海外の人にも「こういう文化があったんだよ」と、「羽裏」というテキスタイルや柄について知ってもらいたいし、「羽裏」というワードを広めていきたいです。「羽裏」のことを知っている人はまだまだ少ないので、逆にだからこそ「羽裏」の認知度を上げて、社会的地位を上げていきたいと思っています。

ライター中谷:
「羽裏」柄は、本当にインパクトがありますよね!海外の人は、日本人より派手な好みの人が多そうなので、「羽裏」柄は人気が出そうですね。

岡島さん:
かといって、柄を前面に出して海外に行くと「日本っぽいね」で終わってしまいます。

海外の展示会に着物を着て行って、「これは着物の柄なんです」と紹介したら、海外の人にとっては忍者などと同じ括りになってしまう。そういうエンタメに捉えられないためには、ど直球で行くのではなく、何らかの紐づけをして、海外の人に伝わるようなプロダクトに変換して発信することが必要だと思います。

ライター中谷:
「伝統」「異文化」を前面に出すのではなく、海外の人が今、「自分の生活に取り入れたい」と思うようなプロダクトになるというのが大切なのでしょうね。

岡島さん:
「羽裏」は今でこそ現代アートに近い図案が多いですが、その一方で「外からは見えない内面的なファッションを楽しむ」という発想は、古来からの日本人の心理的な部分を強く象徴していると思います。

海外の人から見ると、日本人は非常に奥ゆかしくシャイな民族という印象があると思います。それは時に惜しい部分になることもありますが、私は逆にそれを日本人の持つ美徳、審美眼として、「羽裏」を通じ海外に発信したいと思います。

ライター中谷:
精神的なものを含め、日本人が培ってきた素晴らしいものを、世界に通じる形で発信していくのですね!

岡島さん:
そういうことを考えると、可能性はたくさんあると思います。今までやってこなかった見せ方で、呉服とは違う新たなマーケットが開拓できるのでは、と考えています。

岡島さん
岡島さん

海外の人は「そこに使うの?」というような、日本人が全く思いつかないような使い方をします。そういうところを常に意識し、着目したいですね。

ライター中谷
ライター中谷

「外の目からものを見る」ことで、新たなヒントが得られそうですね!

編集後記

生粋の京都人ながら、「色々な所に行くのが好き」と、旅行歴豊富でイギリス留学も経験された岡島さん。

老舗の伝統を大切に継承しつつ、開かれたマインドと視点を持たれているからこそ、「MAJIKAO」の自由な発想と魅力的な商品が生まれるのだと感じました。

「羽裏」の魅力を世界に伝えるためのチャレンジ、応援しています!

ギフトランキング

\ BECOS編集部が厳選 /

伝統工芸品おすすめランキング発表

\ BECOS編集部が厳選 /

伝統工芸品おすすめ
ランキング発表

ギフトランキング

\ BECOS編集部が厳選 /

伝統工芸品おすすめランキング発表

\ BECOS編集部が厳選 /

伝統工芸品おすすめ
ランキング発表

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次