本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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日本の伝統的な生活文化の中で欠かせない存在である襖(ふすま)。四季折々の風景と共にふすま絵に欠かせないのが、極薄の金箔を粉や糸のように加工して繊細に装飾する「金銀砂子」細工です。今回は、業界シェアNo.1の大手ふすま紙メーカー、株式会社菊池襖紙工場の「伝統工芸室」で、和モダンなアートパネル「逸品集」を制作されている山本和久さんに、ふすま紙の現状や「逸品集」が生まれた経緯、「金銀砂子」細工の魅力や後世に残し伝えるべきものについてお話を伺います。
株式会社菊池襖紙工場は、大正13年に墨田区で襖紙の手捺染加工の職人集団として始まり、関東大震災の復興期に襖紙の需要が増加。昭和23年に会社が設立され、昭和30年には襖紙印刷用の輪転機を導入し、大量生産が始まる。昭和39年に埼玉県草加市に移転し、多くの新機械を導入。現在は、大型印刷機16台を持ち、シェアNO.1の位置を維持。平成20年にはDIY用製品を開始し、インテリア全般へ展開。平成27年には伝統工芸の専門チームを設立し、日本の伝統技術を受け継いでいる。同社は、日本の住空間に寄り添い、モノ創りを通じて、様々なニーズに応えている。
山本和久 菊池襖紙工場 伝統工芸室 室長
本日はインタビューよろしくお願いします!まずは、御社の歴史について教えてください。
よろしくお願いします!弊社は1924年に創業しました。当初は墨田区立花でふすま紙の手加工の型染め作業を行っていました。その後、戦後の高度経済成長に伴い、集合住宅や団地の増加によって需要も大幅に増えました。そのため、工業生産を行う必要がありました。輪転の印刷機、またシルクスクリーンの印刷や箔押し機などを導入し、埼玉県の草加市に移転しました。現在は大きな紙のロールの印刷を行っています。
ふすま紙以外にも作られているのですか?
現在、ホームセンターなどにも様々な商品を卸しています。例えば、壁紙やガラスフィルム、ステッカーなどがあります。その他、内装に関わる様々なアイテムを生産・販売しています。
やはりでも、ふすま紙が一番多いのですか?
はい、やはりふすま紙が主軸ですね。ふすま紙の印刷には大きな機械を使用するので、やっぱりそちらをちゃんと回していかなければいけません。
今は機械が主流ですか?
一回の注文で1000枚や2000枚と、量が出るものなので、機械で印刷されたものが主力となっています。今はインクジェットプリンターも導入したので、色あせが少ないようなプリントもできるようになっています。
機械ではなく、手で描かれる特別な部署があるのですか?
オーダーメイドで、何か手描きで描いて欲しいなどの依頼があれば、伝統工芸室とデザイン課というところで連携して、原画を起こして作っていきます。
ライフスタイルが変わり、和室が少なくなっている今、ふすま紙の現状というのはどうなっていますか?
おっしゃられた通り、昭和の時代まではお茶の間も寝室も畳と襖がセットになっていることが多かったと思います。でも近代化に伴い、床はフローリングになり、ふすまはドアになり、押し入れはクローゼットになっていったので、ふすまが日常で使われる機会は本当に少なくなっています。
マンションなど、ふすまが一枚もないことも多いですよね。
一方でお寺や神社、料亭やホテルなど、和を内装で使われていらっしゃるような所では、「オリジナルのふすまを作って欲しい」などのオーダーもいただくことが結構あります。全体的にはふすまの需要は本当に減ってしまっていて、西日本はまだ多少需要はあるようですが、東日本などはかなり減っている状況です。
「逸品集」は、御社の中でも伝統工芸室という特別な部署で作られているのですよね?
弊社には従来からデザイン課というものがあり、私は最初、デザイン課で仕事をさせていただいていたのですが、オーダーメイドの仕事が増えてきていまして。それで、デザイン課の仕事と分割して、オーダーメイド専門の仕事をする部署を立ち上げることになりました。そこで、ふすま作りの伝統に欠かせない、金銀砂子細工の技術をしっかり確立・継承していくことを社長に提案したところ、社長も「それは大事なことだ」とおっしゃって。
ふすまの伝統技術を継承されている方は少なくなっているのでしょうね。
現在、同業者の多くは小さな工房で活動しているため、次々に店舗が閉まってしまっています。そうすると、後継者もいなくなり、代々伝わってきたふすまの伝統技術や道具が何も残らなくなってしまうのではないか、と心配になりました。だから、私たちの会社でその技術やノウハウ、デザインなどをしっかりと継承したいと思い、伝統工芸室を作ることにしました。
そこで、ふすま作りの粋を集めた「逸品集」が誕生したのですね。第一集が2017年に出ましたね。
はい。「オリジナル」のシリーズですね。
日本古来から伝わるふすま紙の伝統加飾技法「金銀砂子細工」を用い、薄紅色の美しい桜と淡い色の春霞を1枚のパネルに表現しました。
正方形パネルは表面から側面にかけても図柄が施してあるので、どの角度から見ても美しく高級感のある仕上がりです。
逸品集
【アートパネル】春 桜小紋・箔 (S) | 金銀砂子細工
こちらは、江戸唐紙のデザインなのですか?
そうです、江戸のデザインです。「オリジナル」シリーズは桜小紋や秋草なども、すべて江戸の柄からのアレンジです。
一番最近の「SU(素)」シリーズは少し違う感じですね。
はい、こちらのシリーズは、他とはがらっと変わって、モダンアートのようなデザインです。日本の文様にはこだわらず、箔と金銀砂子の良さを存分に味わえる、抽象画のような雰囲気に仕上げました。
30cm四方ということですが、すごく迫力がありますね。
ありがとうございます。3cmと厚みもありますので、壁にかけるだけでなく、立てて飾っていただくこともできます。
前面だけでなく、側面にも柄が入っているところがすごいですね。屏風の表と裏を仕上げるのと同じ感じですね。
逸品集「SU」は「素のまま、そのまま」というとおり、和紙の質感を活かし箔や金銀砂子の素材感と伝統技術、オリジナリティ溢れる職人のセンスを存分に味わえるパネルです。
和紙に赤と青の箔押しをし、銀砂子を散らした上に銀野毛で格子模様を描いたので、それぞれの素材の質感が目に楽しいパネルです。
逸品集
【アートパネル】SU 04 編 HEN (S) | 金銀砂子細工
「金銀砂子」」細工とは、日本独特のものなのですか?
金箔って、もともとエジプトが発祥の地なんです。ツタンカーメンとか。それがインドから中国にシルクロードで伝わり、中国から日本に伝えられました。当初は仏像に金を施すなどの技術であって、金箔を薄く伸ばすという技術はまだ高度に発達していなかったと思われます。それが日本に伝わって、平安時代には金や銀の箔を製造する技術が確立していた、という文献が残っているそうです。
中国では金箔はなかったんですか?
あったのですが、まだ厚みがあって、アルミホイルのような感じですね。それが日本に来て、日本の水が非常に良かったこと、また箔は紙の繊維といっしょに打って伸ばしていくのですが、そのための和紙、雁皮紙というのですが、それが良かったということで、技術が発展していきました。
日本の風土に合っていたのですね。
今では金沢が99%作っていますが、やはり金沢の箔は素晴らしいですね。それだけ薄いから砂子技術も発達しました。
砂子には薄い箔が必要なのですか?
蒔絵などは、砂子よりずっと粒の大きい、砂粒のような金を漆にまいて磨いて作りますが、砂子のように粉状のものを仕上げるには、やはり薄い金箔があることが前提になるんです。
よくお寺のふすまなどに、金の雲が描かれていると思うのですが、あれは砂子を筒に入れて振って、雲の形に仕上げているんですね。金銀砂子細工をする方はもうあまりいらっしゃらない?
30年前から考えると、半分はいないし、10分の1くらいに減ってしまったのではないでしょうか。全国でも10人くらいしかいないのでは、と思います。
ふすま以外には砂子細工はどこで使われるのでしょう?
美術品や神社仏閣の障壁画などですね。その他では、書家さんが使われる料紙を飾るために砂子技術が使われることもあります。
金銀砂子細工の魅力はどういう所だと思いますか?
砂子は筒に入れて振るので、普通に絵を描くのとは違い、間接的に画面に定着させることになります。そうすると、柄がふんわりとしたものになります。あるいは、直線の抜きの型紙を使って、砂子をまくとラインのようにすぱっと直線が出たりとか。デザイン性があり、自由なイメージで描くことができます。あるいは箔を四角く切ったり、野毛といって糸状に切ったものを使ったりします。それらを組み合わせると、幾何学模様なものが作れたりとか。
色というより、光のように見えますね。角度によって、見え方も違いますね。
自然光に当てると一番きれいですね。朝や夕方で違ったり、空気によっても。薄暗いお部屋で、光が当たった時にこれだけ光ったり。どんなに印刷技術とかインクジェットとかコンピューターが発達しても、これは再現できないと思います。そういうものを駆使することによって、日本独自の伝統の魅力を感じていただければと思います。
「逸品集」で、そういう魅力を気軽に身近に感じていただけますね!
時代の変化の中でふすま作りをされていて、以前と比べてどういう変化がありましたか?
今、一番感じるのは、「ただ良い物を作って出せば受け入れられるという時代ではない」ということです。良いものがどうして良いのかの背景・価値をちゃんと理解し、自分の知識や美意識として吸収した上で、「だから良い物なんだ」と実際に手に取った時に感じていただくのが一番大切だと思います。「光の加減によって、金箔はこんなに表情が違って見えるんだ」とか。やはり共感していただいて、知っていただくことで、商品の魅力って伝わると思うんですね。そうやって体験して知っていただくことが、「金銀砂子」細工をこの先も推進することになるし、より普及することにより皆さんに良い物を知っていただく機会が増えていくのかな、と思います。
昔は良い物をわかってくださる目の肥えた方がいらっしゃったと思いますが、今は少なくなってきたのかもしれませんね。
「逸品集」を見られたお客様に、「これ、どうやって印刷したの?」と質問されて、驚いたことがあります。それで、「これは印刷したものではなくて、金箔を細かく切ったりする金銀砂子細工の技術を駆使して仕上げたものなんです」と実演して説明しました。そしたら。「ああ、そうなんだ、印刷じゃできないものだね」と納得していただいて。今は「黙っていてもどういう風にして作られたか分かる」っていう時代ではないので、作り方や歴史的な背景などを、ちゃんとこちら側から発信しなければいけないな、と思います。
これだけ印刷技術が発達したら、本当にこういう質感がプリンターで出せるのでは、と思う若い世代の方も増えてくるかもしれませんね。
箔が程よく変化していく風合いや、金銀砂子細工のような表現は、やはりプリンターでは再現できないと思いますね。古の人の知恵や日本古来の文化というものを、再認識してもらえたら、と思います。
変化するライフスタイルの中で、伝統的な技術を使いモダンな商品を開発しているというのが、とても柔軟な考え方だと感じました。まず、製品としての魅力があり、その中に奥深い伝統や技術が感じられる製品づくりというのは、今後の伝統工芸産業において重要になる考えだと思います。
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