BEAMS fennicaのディレクターに聞く!デザインとの融合による伝統的な手仕事の未来

本記事の制作体制

熊田 貴行

BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。

編集部 中谷
編集部 中谷

日本のセレクトショップの草分け的存在のBEAMSが、実は「伝統工芸」にとても力を入れているって知っていましたか?今回は、BEAMSが立ち上げたレーベル〈fennica(フェニカ)〉のディレクターである菊地優里さんに、fennicaがなぜ伝統的な手仕事に注目したのか、また伝統工芸が抱える課題と、fennicaが考えるこれからの伝統工芸についてお話を伺います。

fennica

fennicaイメージ
2003年、BEAMSが立ち上げたレーベル〈fennica(フェニカ)〉。”デザインとクラフトの橋渡し”をテーマに、日本を中心とする伝統的な手仕事と、世界中から集めた新旧デザインを融合するライフスタイルを提案し、洋服からインテリア、雑貨、食品などまで、あらゆる視点で生活を豊かにするものを提供している。

取材させていただく方

菊地優里さん

菊地優里

1987年、千葉県生まれ。大学卒業後、 2010年にビームスに入社。「インターナショナルギャラリー ビームス」に 〈fennica〉担当として配属。店舗での販売員を経て2017年から〈fennica〉の 企画・バイヤー補佐を担当。2021年より現職。洋服から器、家具に至るまで様々 なジャンルのものをミックスしたスタイルを提案している。

目次

〈fennica(フェニカ)〉とは?誕生の経緯とコンセプト

〈fennica(フェニカ)〉とは?誕生の経緯とコンセプト

編集部 中谷

編集部 中谷

fennicaが立ち上げられたきっかけや経緯を教えてください。

菊池さん

菊地さん

BEAMSが設立されて20年ほど経った頃、後にfennicaを立ち上げることになったディレクターも30代の後半に差しかかっていました。若い時からBEAMSに来てくれていたお客様も家族ができたり、生活環境が変わっていく中で、「ファッションだけではなく、家の中で使う家具や生活雑貨を扱えば、お客様も喜んでくれるのではないか」という発想から、新しいレーベル立ち上げへのリサーチを始めました。

編集部 中谷

編集部 中谷

お客様の環境の変化に合わせて誕生したレーベルなのですね!

菊池さん

菊地さん

当時、アメリカのミッドセンチュリーモダンの家具なども出てきていたのですが、既に他社がその分野を確立していました。そこで、素材や職人気質など日本に共通するものづくりをする北欧に焦点を当てよう、と考えたそうです。一方で、「日本でやっているのに日本の家具を扱わないのもおかしい」ということで、海外の雑誌などに頻繁に名前が出ていた「柳宗理」さんにコンタクトを取ることになりました。どうやってコンタクトを取ったらいいかも分からず、まずは日本民藝館に連絡を入れたそうです。

日本民藝館

日本民藝館 約30年間にわたり柳宗理が三代目館長を務めた

編集部 中谷

編集部 中谷

柳宗理さんは、工芸やプロダクトの世界ではとても有名ですよね!

柳宗理

柳宗理

20世紀に活躍した日本のインダストリアルデザイナー。戦後日本のインダストリアルデザインの確立と発展の最大の功労者と言われている。1915年、東京都原宿に民藝運動を起こした思想家『柳宗悦(やなぎむねよし)』の長男として生誕。1935年、東京美術学校(現、東京芸術大学)油画科に入学。1950~60年代の戦後復興期から高度経済成長期にかけて、日本のモダンデザインを支えた。椅子やカトラリーなど身近な製品をはじめ、橋やオブジェなど幅広いプロダクトを手掛け、代表作は「バタフライスツール」。当時誰も美を追求していなかった日用品に目を向け、実質日本ではじめての工業デザイナーと言われている。

バタフライスツール

1956年に柳宗理によってデザインされた、蝶が羽を広げたような形をしたスツール。同形の2枚のプライウッドを金属の棒で連結したシンプルな構造で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やパリのルーブル美術館のパーマネントコレクションに選定されている。柳宗理がアメリカでイームズの成形合板技術を目の当たりにした後、彼のイマジネーションと天童木工の成形合板技術によって誕生した。

菊池さん

菊地さん

そうなんですよね!でも当時は、「工芸やプロダクト」のいわゆるクラフトと、「デザインやファッション」というものは完全に切り離されて考えられていたようで、当時のディレクターも民芸や工芸のことに関しては全く知識がなかったそうです。fennicaに”デザインとクラフトの橋渡し”というキャッチがつけられたのも、そのような背景があったからなんです。

編集部 中谷

編集部 中谷

そうなのですね!当時は遠い存在だったのですね。

菊池さん

菊地さん

はじめは「バタフライスツール」を取り扱いたいという相談で訪問したのですが、当時のそのような状況ではファッション業界のBEAMS、と聞いてもどこの馬の骨とも分からないということで、あまり信頼されていなかったようです。しかし、当時のディレクターが何度も足繁く通ったり、柳さんの展示替えを手伝ったりして、信頼をいただき取り扱いできるようになりました。

編集部 中谷

編集部 中谷

情熱が伝わったのですね!!

菊池さん

菊地さん

日本民藝館に頻繁に出入りするようになっていたので、次第に民芸品や工芸品の力強さや魅力に惹かれるようになり、日本民藝館のショップに置いてある商品を自分たちでも購入するようになったそうです。その中で、柳宗理さんから「それだけ興味があるなら、実際に自分たちで作っているところを見に行ってみなさい」と言われ、自分たちでも産地に行くようになりました。それがきっかけで、日本全国の職人さんたちと関係が徐々にできていきました。

編集部 中谷

編集部 中谷

モダンな家具に興味を持ったところから、やがて民芸品や工芸品の魅力を発見し、作り手とつながりを持つようになったのですね!

菊池さん

菊地さん

そうなんです。そうやって90年代後半から沖縄や島根の窯元などとのお付き合いが始まり、2003年にはファッションとインテリアの両方を扱うレーベル、fennicaが立ち上がりました。

「自分たちが良いと思ったもの」を紹介

〈fennica〉の活動

編集部 中谷

編集部 中谷

普段はどのような活動をされているのですか?

菊池さん

菊地さん

メインは、店舗が東京と神戸にあるのでそのお店の運営とECの運営で、そこで「自分たちが良いと思ったもの」を紹介しています。

編集部 中谷

編集部 中谷

ECのブログやコーデ例も頻繁に更新されていますよね!その他、メインのお仕事以外では、どんな活動をされていますか?

菊池さん

菊地さん

季節ごとにイベントを行い、認知を広げる活動をしています。「地方のお客様にも実際に商品を見て触れていただきたい」ということで、ポップアップとして全国のBEAMSを回ったり、手間がかなりかかりますが、外部の陶器市に出展したりということもあります。

ポップアップ

編集部 中谷

編集部 中谷

菊地さんご自身は、どのような活動が多いのですか?

菊池さん

菊地さん

私自身は、職人さんやメーカーさんに会いに行っていることが多いですね。メールですぐにやり取りできるような方々ばかりではないので、直接会って、話して信頼してもらうこともとても大切だと考えています。

伝統工芸の課題と解決へのアプローチ

なぜ、伝統工芸なのか? 伝統工芸が抱える課題

編集部 中谷

編集部 中谷

職人さんやメーカーさんとたくさん関わる中で、今、伝統工芸が抱えている課題はどのようなものだと思われますか?

菊池さん

菊地さん

大きく分けると、3つあると思っています。一つ目は「ライフスタイルの変化による需要の低下」です。背負いカゴなどは、昔は行商に行くために必需品だったと思うのですが、今ではその用途で使われることはほとんどなくなっています。仕方がないことだと思いますが、職人さんたちはこういった現実にさらされていますね。

編集部 中谷

編集部 中谷

残りの二つはなんでしょうか?

菊池さん

菊地さん

二つ目は「後継者の問題」です。焼き物などは人気があり、比較的後継者の方もいるところが多いのですが、それ以外の分野ではかなり厳しい状況のところが多いように思います。また、三つ目は「素材の減少」ですね。例えばカゴ細工でも、腕のいい編み手がいたとしても、あけびや山葡萄のツルなどの素材で上質なものが入手しにくくなっているなど、難しい状況になっています。

編集部 中谷

編集部 中谷

そうなんですね。何かできるアプローチがあると思われますか?

菊池さん

菊地さん

私達が企業としてできることは、なるべく多くの商品を買い取って少しでも多くのお客様に届けて、商品を知ってもらうことだと考えています。また、レーベルが立ち上がって20年になるので、これからはそれ以上のことをしたいなと思っています。

編集部 中谷

編集部 中谷

例えばどのようなことを?

菊池さん

菊地さん

やはり、一企業だけではなかなか難しいので、自治体や地域を巻き込んで取り組んでいくことが必要と考えています。燕三条の「工場の祭典」のように企業も自治体も工房も一緒になって取り組むことで、工芸やものづくりに興味を持つ若い方が増えるといいな、と考えています。

燕三条 工場の祭典

燕三条の「工場の祭典」

新潟県燕三条地域で開催される、ものづくりの現場を見学・体験できるイベント。2013年から開催されており、毎年10月の数日間、約100の工場を一斉に開放。イベントでは、工場見学ツアーやワークショップなど、工場ごとに趣向を凝らした企画を開催。

伝統工芸は「自分たちの『今』の生活を彩るもの」

伝統工芸の可能性

編集部 中谷

編集部 中谷

逆に、伝統工芸の将来性や可能性はどのように見られていますか?

菊池さん

菊地さん

私は日本の手作りや手仕事のすばらしさ、日本のモノづくりに底力を感じます。だからこそ、今の若い世代の方に「伝統工芸=古いもの」ではなく、新しいトレンド=自分たちの「今」の生活を個性豊かに彩るものとして捉えてもらえるよう、提案をしていきたいですね。

編集部 中谷

編集部 中谷

とても素敵ですね!

菊池さん

菊地さん

工芸・民芸が古くさいと思われることもありますが、実はその当時30代だった柳宗悦氏たちがあらためて「用の美」の考え方と向き合って「民藝運動」が生まれたことからもわかるように、当時最先端な考え方だったのだと思います。

用の美

1926年ごろに始まった「民藝運動」に由来する言葉。民藝運動の創始者である柳宗悦は、生活道具として使われていた民藝品に新たな価値を見出し、「用の美」と称した。西洋的な「アート」の思想が導入された後、無名の作者による手仕事の美しさを改めて評価する思想。柳宗悦は「工芸とは、実用品の世界」であり、工芸美とは「用に即する美」と述べている。簡素で飾らない美しさと、道具としての機能性を併せ持つ民藝が、日本のみならず海外からも高く評価されていることが、「用の美」の価値を示している。

編集部 中谷

編集部 中谷

今でこそ歴史あるものと捉えていますが、当時は30代の若者が考えたものですものね!

菊池さん

菊地さん

そうなんです。だからこそ私たちも、「新しいもの」として捉えてもらえるように伝えていきたいと考えています。また、若い世代というと漠然と20代かなと考えていたのですが、更にその下の子ども世代をターゲットにすることも視野に入れ始めています。

編集部 中谷

編集部 中谷

子ども世代ですか!例えばどのような取り組みがありますか?

菊池さん

菊地さん

日産「セレナ」さんとのコラボで、「てしごトリップ in BEAMS JAPAN」というものを実施しました。子どもたちが日本各地の伝統工芸の工房で弟子入り体験をするというものです。子どもたちの作品のいくつかを、師匠の作品といっしょにBEAMS JAPANで実際に展示販売しました。

てしごトリップ in BEAMS JAPAN

「てしごトリップ

「てしごトリップ in BEAMS JAPAN」は、日産「セレナ」とBEAMS JAPANの共同プロジェクト。子どもたちが旅行した土地で、そこでしか得られない体験を通じて価値観や感性を育む「旅育」の考え方に注目し、日本各地の伝統工芸の工房への弟子入り体験を実施。制作のみならず「自分の作品をBEAMS JAPANの店舗で販売するなら、いくらに値付けするか」を子どもたち自身に考えてもらい、各々が値付けた作品を展示販売。

編集部 中谷

編集部 中谷

とてもおもしろい取り組みですね!子どもたちにとって、忘れられない体験になるでしょうね!

トレンドを追うのではなく普遍的なものを

伝統工芸が未来に続くために必要なこと

編集部 中谷
編集部 中谷

職人さんたちと接する中で、伝統工芸が未来に続くために必要なことは何だと思われますか?

菊池さん

菊地さん

「自信を持ってもらう」ことが、とても大切だと思っています。工芸品の需要が減っている中で、自信を失ってしまっている方も多いです。だから職人さん達には、できるだけ店舗でのお客様の声を伝えるようにしています。「どのような部分が評価されて売れているのか」を伝えることで、「もっとこうしよう」とか、前向きに考えてもらえるきっかけにしてもらえたらと考えています。

編集部 中谷

編集部 中谷

これまでは卸売がメインで、作り手には直接お客様の声が届きにくい環境だった、ということもありますよね。

菊池さん

菊地さん

そうなんです。ただ、「これが売れているから、こうした方がいい」といったことは言わないようにしています。今売れているということは、一過性であることもあるので、トレンドを追うのではなくて、「私たちがいいなと感じたもの」や「お客様に良さを伝えられるもの」を軸に職人さんには作ってもらうようにしています。

編集部 中谷

編集部 中谷

素晴らしいコンセプトですね!

菊池さん

菊地さん

今、注目されているから大量に発注して、現場が混乱してしまったりといったことも聞くので、私たちとしては将来に渡って長く存続してもらうためにも、一過性ではなくて、普遍的なものを少ない量でも作り続けてもらえるようにしたいと考えています。そういった商品を一人でも多くの方にBEAMSのfennicaを通して知ってもらって、使ってもらえたら嬉しいです。

編集後記

今でこそ、おしゃれな伝統工芸のブランドが沢山ありますが、BEAMS fennicaは20年前から、日本の工芸・民芸に目をつけ、少しずつ職人さんや、メーカーさんと関係を築き、新しいライフスタイルの提案をし続けているということにとても感動しました。このような企業があるからこそ、今日の北欧家具と民芸・工芸をミックスしたスタイルがあるのだなと実感しました。これからもBEAMS fennicaの商品作りや発信に注目していきたいですね。

取材させていただいたブランド

BEAMS fennica

このブランドの商品を見てみる

ギフトランキング

\ BECOS編集部が厳選 /

伝統工芸品おすすめランキング発表

\ BECOS編集部が厳選 /

伝統工芸品おすすめ
ランキング発表

ギフトランキング

\ BECOS編集部が厳選 /

伝統工芸品おすすめランキング発表

\ BECOS編集部が厳選 /

伝統工芸品おすすめ
ランキング発表

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次