三方の可能性を探して。 新商品開発と後継者に託す想い。

本記事の制作体制

熊田 貴行

BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。

旧来の徒弟制度がなくなった現在、伝統工芸の担い手を育てる環境に、変化が起きています。

名古屋の岩田三宝製作所は、名古屋市の「伝統産業後継者マッチング支援事業」に参加し、人材の採用をしました。こうした、伝統工芸職人の募集は、今後、増えていくと思います。実際に、私も「ニッポン手仕事図鑑」のインターンシップで採用が決まりました。

伝統工芸職人になるのは、遠い世界ではありません。一緒に、これからの日本の伝統工芸品を作っていきませんか?

目次

岩田三宝製作所の「ものづくり」とは?

岩田三宝製作所

創業300年の三方専門製作会社。江戸中期から尾張藩の産業として、神具、仏具、結納道具などを作り始め、現在まで事業を続けている。
2017年に「尾張仏具」として国の伝統工芸品に指定された。商品については、自社ECサイトで購入できる。

三方・三宝(さんぽう)とは
神饌を載せるための台。高貴な方への献上する際にも使用された。
三宝」は漆塗で仏教、「三方」は白木造りで神道に用いる。

取材させていただく方
熱田の地で“三方”をはじめとした神具・仏具を長年作成している岩田三宝製作所 7代目の岩田康行さん。従来の神具づくりのみならず、海外進出や技術を活かした日用品の開発など多岐にわたる挑戦を続けている。

貴重な木曽ひのきを50%廃棄?一貫生産だから見えた答え

取材部 大場
取材部 大場

御社では、貴重な樹齢300年の木曽ひのきを原料に製作されていますね。

岩田さん
岩田さん

木曽ひのきを丸太で買い、自社で木取加工から製材・組み立てなど全てを行っています。木目が細かく綺麗に見える柾目挽き(まさめびき)という製材をするので、大量の廃材が出ます。子供の頃から「もったいない」と悶々としていました。

木曽ひのき


木曽谷国有林で産出される天然のひのき。木目の細かさと白い肌合いが特徴。工芸品にも数多く使用される他、伊勢神宮の遷宮の際にも使われる、国内最高級の木材。
江戸期には尾張藩領であり、岩田三宝製作所では、今でも当時と同じ木曾ひのきを使っている。
近年では、産出量が規制され、価格上昇し入手が難しくなっている。

参考

柾目挽き:柾目に製材すること

柾目(正目)とは、まっすぐに通った木目のことで、柾目に製材するためには、木材を常に、芯から放射線状に製材する必要があり廃棄部分が多い。木工芸において、最も格の高い製材方法。

取材部 大場
取材部 大場

どのぐらい廃材になるのですか?

岩田さん
岩田さん

製材するだけで、約半分になります。機械の刃物幅が、粉になり廃棄されます。4.5ミリの薄い板を取るためには、刃物分を含めると倍の幅が必要になります。

廃材を使ってエッセンシャルオイルを作る人たちと知り合い、廃材活用を始めました。他にカンナくずを使ったアロマディフューザーなど、廃材を利用したアップサイクル商品づくりにも取り組んでいます。

神具は、自然界の神殿⁈そのこだわりとは?

取材部 大場
取材部 大場

三方を作る上での、こだわりはありますか?

岩田さん
岩田さん

柾目挽きの材料を用い、商品を製作しています。木目の奇麗さだけでなく、製品にした時に、ねじれや狂いが少ないところが利点です。コストも手間もかかるので、敬遠されているようです。材にも、作り方にも、こだわって生産しています。そして、神事に使う事もあり、天地無用にならない商品作りをしています。

取材部 大場
取材部 大場

天地無用というのはどういうことですか?

岩田さん
岩田さん

作る時に木が生えているように、根っこから天に向うように木目を組むことです。人間の感覚は不思議で、木目が逆になるのが分かるようです。天然のひのきの山中に神殿があり、神様が鎮座するイメージで製品を作っています。

取材部 大場
取材部 大場

三方をとりまく現状はどうなっていますか?

岩田さん
岩田さん

名古屋で三方専門の製作所は、当社のみになりました。海外製品もほぼ淘汰され、日本製に戻ってきています。しかし、担い手がおらず、作れる会社に生産が集中するようになってきました。

取材部 大場
取材部 大場

そのような中、岩田三宝製作所の強みは何ですか?

岩田さん
岩田さん

機械加工での「一部量産化」と、伝統的な技術を用いた「手仕事での一品生産」まで幅広く生産できる体制を持っていることです。

海外発信へ。三方へのフランス人の反応は?

「三方、知らないよ!」からの新規事業

取材部 大場
取材部 大場

どうして、神具以外の製品作りを始めたのですか?

岩田さん
岩田さん

顧客の反応を知る市場調査を目的に、2015年から東別院の朝市に毎月出店していました。終業後の部活動として5人で活動を開始しました。「作りたいものを、作ろう」とワイワイやっていた感じです。この製品づくりがきっかけとなり、展示会や百貨店での催事などをするようになりました。

取材部 大場
取材部 大場

お客様の反応は、いかがでしたか?

岩田さん
岩田さん

「三方」という名前が、認知されていないことを知りました。「買うところがわからなくて、何十年も使い続けている」「昔噺に出てくるもので、実際にあるんだ」という状況に、恐怖を覚えました。日本の伝統文化なのに、当の日本人が知らないということが、本当にかなり怖いなと感じました。

取材部 大場
取材部 大場

怖いとは、どういうことですか?

岩田さん
岩田さん

新年の初詣が、神社に行き、お守りやおみくじを買うためのイベント行事になりつつあるように、背景の日本文化について認知されていないのではないかと感じます。

新商品開発や海外進出を通し、三方の可能性を広げ認知されるきっかけを作りたいと思い、活動しています。

岩田三宝製作所のブランド

・三方製作所

三方のほか、神具の生産、卸、販売を行う旗艦事業

 http://iwata-ss.co.jp/

・SANBOU 

https://www.sanbou.pro/

伝統的な三方製作の技術を活かした、キッチンウェアブランド

「ボトルクーラー」は名古屋匠土産に選出されている。

・NUSA 

https://nusa.nagoya/

島村 卓実氏、デザイン。海外向け商品として企画された。

現代の三方として、伝統工芸の新しい提案をしている、ブランド。

三方が大人気?その可能性は無限大

取材部 大場
取材部 大場

三方の認知を広めるために、海外に向けた取り組みをされているようですが、反応はどうですか?

岩田さん
岩田さん

2018年にフランス・パリの伝統工芸のセレクトショップ「Maison Wa」に出店し、3か月程、販売とワークショップをしました。また、昨年の1月に欧州最大のインテリア・デザインの見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ2022」にも展示しました。フランスでは「三方が欲しい人」が沢山いました。

取材部 大場
取材部 大場

欧州の人と、三方の「神様に捧げる台座」としてのイメージを共有できますか?

岩田さん
岩田さん

イメージはあるようです。「お殿様に献上する台として使っていたから、プレゼントするときに使うのはどう?」という提案をしたら、「日本的ですごいユニークだね」と反応をもらいました。「神具・仏具」ではなく、三方の用途と日本的な価値観を組み合わせて、日本文化そのものとして提示していくのも、面白いのではと思いました。

取材部 大場
取材部 大場

買って、どうされるのでしょう?

岩田さん
岩田さん

買ってくださったお客様は、紅茶や日本茶などを扱う高級店で、店舗に三方を置いてもらっています。日本茶を入れるときに、三方の上に湯飲みなどを置いた写真をSNSに投稿してくれました。しつらえとして、海外の洋間にも映えていました。三方そのものを海外に持っていくことの、可能性を感じました。

後継者マッチング支援事業について

だから、後継者マッチング支援事業に参加しました!

参考

ニッポン手仕事図鑑 

https://nippon-teshigoto.jp/

全国各地の伝統工芸産業の後継者問題解決のため、伝統工芸の事業者と、就職希望者をマッチングする「後継者インターンシップ」を全国各地で行い、毎年産地に後継者が誕生している。

「尾張仏具後継者インターンシップ」は名古屋市の事業を、「ニッポン手仕事図鑑」が受託し、2022年9月に開催された。

取材部 大場
取材部 大場

後継者マッチング支援事業についてお聞かせください。なぜ、この事業に参加しようと思いましたか?

岩田さん
岩田さん

弊社の社員は、技術があれば一生現役で仕事をしてもらっています。経験年数が増えると、誰でも技術は向上していきます。20歳ぐらいの年齢から仕事を覚えてもらい活動してもらえば、産地全体が活性化するのではないかと考えています。以前から、若手の育成が必要だと考えており、参加しました。

取材部 大場
取材部 大場

名古屋市の伝統工芸の人材募集、またニッポン手仕事図鑑の活動をどう思いますか?

岩田さん
岩田さん

一年前に、尾張仏具の別の事業者が同じ、インターンシップで後継者採用をしました。若くて意欲的な子です。

弊社でこれまで採用してきた人材は、木材加工の経験者ばかりでしたが、年齢的に後継者としては難しく、この名古屋市の事業なら、若い担い手が育てられると思いました。全国規模で人材を募集する、ニッポン手仕事図鑑の取り組みは、「すごい面白い」と思います。

取材部 大場
取材部 大場

インターン生から受けた印象を教えてください。

岩田さん
岩田さん

若い方が応募してくれたのは、仏具や神具だけでなく、海外進出や新商品開発など、新しいことにチャレンジする会社だからだと考えています。新しいことに挑戦しながら、技術を後世に残すことを、両立できる環境が、大事になります。若い子の感じ方は面白く、物事に柔軟に対応できるのだと改めて感じました。

取材部 大場
取材部 大場

女性の職人さんに対する、お考えはいかがですか?

岩田さん
岩田さん

女性の社員や職人さんは、今まで応募がなく採用しませんでした。十年程前に、取引先の女性の職人さんから「ものづくりが好きだし。木を触るのが好きだ、大変な仕事を含めてすべてに挑戦してみたい」と聞いた時に、重い物を運ぶなど女性にはきつい仕事だから「出来ない」という判断は必要ないのだなと感じました。

後継者はこう育てたい!チャンスやサポート体制について

取材部 大場
取材部 大場

今回はデザインを学んでいる方を採用されました。工芸品の「デザイン力」をどのようにお考えですか?

岩田さん
岩田さん

デザイナーと一緒に、商品開発を行っているのですが、中には、違和感を覚えるものがあります。ものを作る時の「デザイン」は、工程の一つで、工法から営業手法などトータルで考えていきたいのです。また、自社で企画を行い、デザインのみ依頼することで、コスト削減ができ、その分を、商品広告などの訴求に投資できるようになります。

取材部 大場
取材部 大場

採用された方と、一緒にお仕事をされた感想はいかがですか?

岩田さん
岩田さん

三方製作の他に、SNS更新を担当してもらっています。動画や写真の撮り方が、僕とは、全然違います。デザインを学び、色々見てきたことが「彼女が持ってる技術」なのだと思います。木工技術と合わせて、本人が持つ感性や技術を、伸ばしていきたいと思います。

取材部 大場
取材部 大場

今後、製品のデザインをしてもらう予定はありますか?

岩田さん
岩田さん

毎年6月と12月にポートメッセ名古屋で開催されるイベントに、尾張仏具と名古屋仏壇の職人グループで参加しています。そこで「なんか商品出さない?」と提案しています。デザインを学び「新しいものを作ること」に対して喜びを持つ子なので、「彼女がつくる商品」を知ってもらうための場にしたいと思っています。

取材部 大場
取材部 大場

チャンスを作り、将来のバックアップを、視野に入れられているということですか?

岩田さん
岩田さん

ここは、通過点かも知れません。しかし、雇用主側からすると、技術を習得したら「ハイ。さよなら」では、正直なところ困ります。独立に対しては、バックアップをしたいですが、離したくないんです。雇用形態を工夫して、「三方の仕事」と「独立した仕事」の両方続けてもらえる道を考えています。大型木工機械の個人所有は難しいので、この作業場をベースに、一緒にものづくりをしていければなと思っています。

取材部 大場
取材部 大場

みんなのアトリエのように解放してくれるのですね。木工芸を志す人にとって、夢のようなお話ですよ。

岩田さん
岩田さん

ブランドを立ち上げて、生産し利益を出すのは、並大抵の努力ではありません。同時に販路も必要です。月の生産個数や販売価格、材料の仕入れなど、リアルに考え計算しないといけません。「”やりたい”だけが先行して夢見がちな子が多い」ので、ブランド化のサポートを含めて応援することで、尾張仏具全体を活性化させていきたいんです。

取材部 大場
取材部 大場

後継者志望者が、来たら採用してもらえますか?

岩田さん
岩田さん

うちに余力があれば、対応しますよ。頑張ります。(笑)

インターンシップ参加者のリアル

取材させていただく方

取材部 大場
取材部 大場

ご経歴と、なぜ、インターンシップに参加しようと思ったのか教えてください。

熊谷さん
熊谷さん

就職する前は、東京デザイナー学園というデザインの専門学校に2年通い、プロダクトデザインを学びました。学校の先生から紹介され、ニッポン手仕事図鑑の後継者募集のインターンがあり「じゃあ、ちょっと行ってみよう」と参加し、採用していただきました。

取材部 大場
取材部 大場

それまで、伝統工芸のことを知っていましたか?

熊谷さん
熊谷さん

伝統工芸は知ってはいましたが、具体的には、全然知りませんでした。

三方も見たことはあるけれど、名前を知らない。身近にもないものでした。実際に、インターンとして参加してみて初めて、伝統工芸を学び「なんかすごい」と感じました。

取材部 大場
取材部 大場

職人になることをご両親に反対されませんでしたか?

熊谷さん
熊谷さん

両親とも、いろんな所に行って、経験してほしいタイプなので、大丈夫でした。
ただ、父は1月過ぎに「他探してないの?」と少し反対のようでしたが、母が「やりたいって言ってるんだから。いいでしょ?」と父を説得してくれ、名古屋に来たという感じです。

取材部 大場
取材部 大場

インターン参加時の感想や、大変だった所を教えてください。

熊谷さん
熊谷さん

私だけ、専門学生で周りは大学生でした。皆しっかりしていて「えっ。ガチじゃない?」と本当に大丈夫かなと、不安はありました。どうしても、ベースとなる技術が、それぞれ違うので、自分をアピールしつつ、どういうものを、これから学べるかと考えていました。

取材部 大場
取材部 大場

木工芸の仕事は、どうですか?

熊谷さん
熊谷さん

丸一日ずっとできるのが、楽しいです。実際に自分で作ると、想像力が膨らむと感じます。でも、心と体が追いつかず、「こうしたいな」と思っても出来なかったり。カンナを初めて使った次の日は全身が筋肉痛になりました。1~2週間程度、筋肉痛をしながらカンナを使いつづけ、今では、慣れました(笑)

取材部 大場
取材部 大場

これからの、三方の担い手としての意欲を教えてください

熊谷さん
熊谷さん

入ったからには仕事もしつつ、私のやりたい木工の雑貨制作の両方を、頑張っていきたいです。就活の時にデザイン企画に行くか、ものづくりの方に行くか、どっちかしか選べないと思っていました。しかし、ここでは、木工の製作の他にも、パネルや商品のパッケージのデザインもさせてもらっています。どちらもさせてもらえるのが、ありがたいです。

師匠から、弟子へのメッセージ

取材部 大場
取材部 大場

インターンシップで採用した方へ、今の想いをお聞かせ下さい。

岩田さん
岩田さん

「よう来てくれたな」っていうのが一番最初の感想ですね。

新商品開発も企画会議から、寄り添って一緒に進めていきたいです。「彼女の意図」と「僕の望み」は、同じ仕事を通して、共有し合えると思っています。そして、岩田三宝製作所の本当の戦友になっていってもらいたい。こうして来てくれたからには、後継者になり得る存在になってほしいですよね。

取材部 大場
取材部 大場

三方製作以外の夢や目標については、どのようにお考えですか?

岩田さん
岩田さん

「雑貨を将来やってみたいんだ」という話を聞いています。終業後に会社の作業場を使って「自分の作品作り」をするのは、積極的にやって欲しく、応援しています。そして、これから僕だけじゃなく、本当にいろんな職人さんから、「刺激を受けて、学んでもらえたらな」と思っています。

編集後記:伝統工芸品を残すには、どうしよう?

伝統工芸の従事者として、岩田さんの伝統文化認知に対する「恐怖」という言葉が、とても印象的でした。

工芸品は、決して特殊ではなく、普遍的文化です。伝統文化を作ってきた多くの職人たち、それは日本人誰しもの先祖であるのだと思っています。

伝統工芸に、接する機会を増やしたい。工芸品の良さは、五感で感じて、初めて分かるものです。まずは、工芸品に触れて使ってみることを始めてみませんか?私たち、職人はお使い頂いた方の言葉が何よりも嬉しく、同時に、伝統工芸品を残すことへの誇りを感じることができるのです。

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