四季の移ろいを加賀友禅で味わう!加賀友禅職人に魅力を聞く

本記事の制作体制

熊田 貴行

BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。

ライター鈴木
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みなさんは加賀友禅を知っていますか?石川県の金沢を中心につくられる伝統的工芸品で、京友禅とならんで日本を代表する染物なんです!

今回は、加賀友禅作家の牧野顕三(まきのけんぞう)さんに、加賀友禅の魅力、そして着物だけではない小物作品の味わい方についてお話を伺いました。

まずは加賀友禅のことをよく知るために、加賀友禅の歴史や特徴、また京友禅との違いについてまとめてみました!

目次

加賀友禅の歴史

加賀友禅の歴史(1)加賀古来の染物・「梅染(うめぞめ)」と「加賀御国染(かがおくにぞめ)」

加賀友禅の写真

加賀友禅の歴史は今から約500年前にさかのぼります。

加賀友禅の以前にも、加賀には「梅染」という独特の染色技法が存在していました。

参考

「梅染」とは:
梅の皮や根から抽出した染汁を用いて染める技法。加賀産の絹が用いられた。染める回数によって赤~黒の色合いとなり、献上品としても珍重された。

その後、17世紀中頃から加賀友禅の原点ともいわれる「加賀御国染」が発達し、無地染であった「梅染」に模様が施されるようになりました。

参考

「加賀御国染」とは:
「色絵」「色絵紋」「兼房染(けんぼうぞめ)」の総称。
「色絵紋」は、家紋の周囲を鶴亀・松竹梅などおめでたい模様や草花などで囲ったもの。繊細で華やかな表現で、後に「加賀紋」となった。
「兼房染」は、黒色を用いた染物のこと。

 

加賀友禅の歴史(2)抜群のデザインセンスで加賀友禅を完成させた巨匠・宮崎友禅斎(みやざきゆうぜんさい)

ライター鈴木
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「友禅」という呼び方もその名から取られているように、加賀友禅の歴史で重要な人物が、宮崎友禅斎です。

宮崎友禅の座像の写真

宮崎友禅斎は、江戸時代中期に京都で人気の絵師で、主に扇に絵を描いていました。友禅斎のつくる洒落たデザインの扇は「友禅扇」と呼ばれ、大変人気があったということです。やがて友禅斎は、着物のデザインも行うようになり、それが「友禅染」の始まりといわれています。

正徳2(1712)年に友禅斎は金沢の御用紺屋「太郎田屋」に移り住みました。「加賀御国染」で繊細な図案を描く技術を確立していた加賀の染物に、友禅斎の卓越したデザインや染色技術が加わり、金沢独自の「加賀友禅」が発達していったといわれています。

加賀友禅の歴史(3)加賀友禅初の人間国宝・木村雨山(きむらうざん)

加賀友禅の名を全国に知らしめたのが、加賀友禅作家として初めて人間国宝に認定された木村雨山(1891-1977) です。

木村雨山の着物とは。人間国宝に認定された優美な加賀友禅の魅力と買取相場目安 | 着物たより

金沢出身の雨山は、加賀友禅とともに日本画を学んだ後、32歳で加賀友禅作家として活動を始めます。大胆かつ確かな筆運びと、工夫を凝らしたデザインで花鳥風月を華やかに描きだす雨山の作品は、内外で高く評価され、パリ万国博覧会(1937)でも銀賞を受賞しました。雨山は昭和30(1955)年に加賀友禅作家として初めて人間国宝に認定され、加賀友禅の名を一躍有名にしました。

ライター鈴木
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雨山の作品、華やかで大胆なデザインが素敵ですね!

ここを見ればわかる!加賀友禅の特徴

ライター鈴木
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では、「これを見れば加賀友禅とわかる!」という加賀友禅ならではの特徴についてお教えしましょう!

加賀友禅のシックな色合いの秘密:加賀五彩

加賀友禅は、はっきりとした古典的な色合いが特徴です。これは、加賀五彩という色調に基づいて描かれているためです。

参考

加賀五彩とは:
加賀友禅の基調となっている5色。
藍、燕脂、黄土、草、古代紫

加賀五彩

ライター鈴木
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現代の加賀友禅作家は全体の配色を決める際、加賀五彩を基にしながらも、時代の流行りや自身の個性で少しずつ変えているそうです。

多大なスケッチに基づく、写実的な描写

加賀友禅の大きな特徴の一つが、絵画のように写実的な自然描写です。着物の模様には花鳥風月が描かれることが多いですが、特に加賀友禅では、自然描写がとても生き生きとして写実的なのが特徴です。

草花の写実的描写が美しい加賀友禅の写真

ライター鈴木
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加賀友禅の師匠は「とにかく写生をしろ」と弟子にいわれるとか。日々の努力の積み重ねが、加賀友禅の美しい自然描写につながるのですね!

加賀友禅といえば…虫食いと外ぼかし

ライター鈴木
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「加賀友禅といえば」の特徴として、そのほかに「虫食い」と「外ぼかし」があります。

「虫食い」とは、写実的な描写を重んじる加賀友禅ならではの手法です。草花の葉が虫に食われた様子を表現します。必ず加賀友禅の作品に入っているわけではありませんが、「虫食い」を入れることで、柄のアクセントとしての味わいが感じられます。

「外ぼかし」とは、柄の外側から内側へ向かって色をぼかし、グラデーションをつける手法です。「外ぼかし」をすることで、絵に奥行きや立体感が生まれます。
また「三色ぼかし」という、三色のぼかしを使い分けて染める技法もあります。「三色ぼかし」で、よりリアルに紅葉や枯れなどを表すことができます。

外ぼかしの写真

ライター鈴木
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ただ均一に染めるのではなく、「ぼかし」や「虫食い」の技法を入れることで、より写実的・絵画的になりますね!

加賀友禅作家の証「落款(らっかん)」

加賀友禅ならではの特徴を見てきましたが、現代の着物作家はさまざまな技術や様式を駆使して柄を描くので、簡単に見分けがつかないこともあります。

ライター鈴木
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ただ加賀友禅の場合、間違いなく見分ける方法が一つあります。それが、加賀友禅作家の証明である「落款」です。

落款の写真

「落款」とは、加賀友禅の作家が自らの名前をそれぞれ独自にデザインした印で、着物の下前の部分に入っています。「落款」を加賀染振興協会に登録することを許されて初めて、加賀友禅作家を名乗ることができるのです。

参考

落款制度とは:
加賀友禅作家と称されるには、加賀染振興協会に「落款登録」されなければならない。まず弟子を抱えて工房を持つ師匠の元で、7 年以上の修行を積む。その上で、加賀染振興協会の会員2名(師匠ともう一人の会員)の推薦を得て、協会の会員資格を獲得し「落款」を登録することができる。

加賀友禅作家の「落款」かどうかは、加賀染振興協会HPの「落款検索」で調べることができます。

ライター鈴木
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「落款」は加賀友禅作家の誇りで、クオリティの高い本物の加賀友禅であることを証明するものなのですね!

同じ「友禅」でもこんなに違う!「京友禅」と「加賀友禅」の違い

ライター鈴木
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では、「京友禅」と「加賀友禅」の違いって、何でしょう?

加賀友禅は武家文化の元に生まれたため、落ち着いた色合いで写実的な表現が特徴です。一方京友禅は公家文化の中で生まれ、図案化された模様や染め後の加工で華やかさを演出する、という特徴があります。それぞれの違いについて紹介します。

京友禅と加賀友禅の差がわかる着物の写真

参考

技法 〜外ぼかしと内ぼかし〜
加賀友禅は外ぼかし:外側の輪郭から内側にいくほどぼかす技法。
京友禅は内ぼかし:模様の内側から輪郭に向かってぼかす技法。

参考

画風〜写実的かデザイン的〜
加賀友禅は草花を中心とした写実的な柄が特徴。
京友禅はデザイン的で図案調な柄が特徴。

参考

装飾
加賀友禅は虫食いやぼかしなど染めの表現でアクセントをつけ、全体的に落ち着きある雰囲気。
京友禅は刺繍や箔押しを施すことで、華やかできらびやかな雰囲気。

参考

作業〜ひとりか分業〜
加賀友禅は基本的にひとりの作家が全ての工程または複数の工程を行う
京友禅は分業体制。それぞれの工程を専門の職人が担当する。

ライター鈴木
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加賀友禅について、もっと知りたくなりましたか?それでしたら、金沢の加賀友禅会館に行かれるのがおすすめです!

参考

加賀友禅会館とは:
加賀染振興協会が運営する加賀友禅の文化施設。加賀友禅の歴史や技法が学べるほか、試着や手作り体験、小物販売もある。加賀友禅の全体像を知ることができ、実際に肌で体感できるのも魅力になっている。

http://www.kagayuzen.or.jp/hall/

小物で加賀友禅の魅力を伝える「染の四季」

「染の四季」の作品の写真

ライター鈴木
ライター鈴木

加賀友禅の魅力がわかったところで、「手に入れたい、でも着物だとちょっと敷居が高い」と思われる方も多いのではないでしょうか?でも、もっと気軽に加賀友禅を楽しめる、素敵な小物もあるんです!

金沢の郊外にお住まいの加賀友禅作家・牧野顕三(まきのけんぞう)さんは、「染の四季」シリーズで、加賀友禅の魅力がいっぱいつまった小物を作成されています。

ここからは牧野さんに、加賀友禅で小物をつくり始めたきっかけや、小物ならではの魅力、また制作へのこだわりなど、詳しくお話を伺っていきます。

加賀友禅を気軽に楽しむ

牧野顕三さんの写真

ライター鈴木
ライター鈴木

「染の四季」ではどのような作品があるのでしょうか?

牧野さん
牧野さん

パネルや額絵、タペストリーや扇子などを制作をしています。

「染の四季」の作品

ライター鈴木
ライター鈴木

なぜ、加賀友禅で小物をつくろうと思われたのですか?

牧野さん
牧野さん

普段は着物の制作が主なのですが、着物を着ていただく機会は少なくなっていますので、小物を通して加賀友禅を気軽に味わってもらえたら、と思いました。

ライター鈴木
ライター鈴木

加賀友禅を特別な日にはもちろん、日常生活で気軽に楽しむことができるのは嬉しいですね!

牧野さん
牧野さん

装って楽しむ加賀友禅だけではなく、加賀友禅の小物で、身近な暮らしの中に安らぎをもたらすことができたら、と思っています。

四季の移ろいを身近に感じて

ライター鈴木
ライター鈴木

「染の四季」では、作品を通して四季の移ろいを身近に味わえますね。なぜこのようなテーマを表現されるようになったのでしょうか。

牧野さん
牧野さん

私は今、金沢から一時間ほどの山のふもとに住んでいます。自然豊かなこの地で、ツクシなどの草花、小鳥や蝶など小さな生き物たちの姿を目にするうち、自然にある四季のさり気ない移り変わりがおもしろいなと思い、加賀友禅で表現するようになりました。

ツクシが描かれた扇子の写真

ライター鈴木
ライター鈴木

加賀友禅で四季の移ろいを味わえるなんて、贅沢ですね!

牧野さん
牧野さん

「染の四季」の作品により、自然のささやかな仕草をお伝えし、四季の移ろいを感じていただくことができたら幸いです。

加賀友禅作家・牧野顕三さんのこだわり(1)「糊置き」と「糸目」

牧野さんは小物作成の際、図案から仕上げまで、おひとりですべての工程を行われています。その制作工程でのこだわりを伺いました。

牧野さん
牧野さん

特にこだわっているのは、「糊置き」という工程ですね。

加賀友禅の「糊置き」:材料はもち米の粉!?

加賀友禅工程 糊置きの写真

参考

「糊置き」とは:
友禅染の特徴で、下絵の輪郭に沿って糊を置いていく作業のこと。 置かれた糊が防波堤のような役割をするので、彩色時の染料が柄の外に滲むのを止めます。

ライター鈴木
ライター鈴木

加賀友禅の糊置きで使う、糊の材料を教えてください!

牧野さん
牧野さん

主な材料はもち米の粉です。あとは作家によって独自の配合もありますので、少しずつ材料も異なってきます。私の場合はほかに、塩、ぬか、石灰、群青という鉱物を配合しています。

ライター鈴木
ライター鈴木

もち米の粉ですか!何だか伸びが良さそうですね!

牧野さん
牧野さん

つくり方も餅のようなんですよ。粉からこねて、蒸してから餅つきのようについて残りの材料と配合させていきます。

ライター鈴木
ライター鈴木

友禅の場合は、糊置きにいつも「もち糊」が使われるのですか?

牧野さん
牧野さん

そういうわけではありません。「もち糊」を使って糊置きするのは、加賀友禅の特徴です。加賀友禅の糊置きは線の太さもさまざまですし、かすんだり滲んだりします。このもち糊が作り出す柔らかい味わい、手で作り出している独自の風合いが、加賀友禅ならではの魅力と思います。

とても複雑な工程を経てつくられる「加賀友禅」

ここで加賀友禅の工程を一通り紹介します。

工程を行う写真

参考

(1)図案:草花を中心とした写実的なデザインが多い。
(2)下絵:図案の上に生地を置き、下から照明を当てて模様を描いていく。このとき「青花」という露草の花の汁で写していく。
(3)糊置き:下絵の線に沿って、筒に入れた「もち糊」を絞り出しながら糊を引く。
(4)地入れ:呉汁(すり潰した大豆を漉した汁)を生地の裏からひいて、裏から火で炙り糊を浸透させる。
(5)彩色:工程の中心となる作業、筆や刷毛を使い色を挿していく。
(6)柄蒸し:彩色したものを定着させるため
(7)中埋め:「糊伏せ」ともいわれ、地染めするための準備工程。模様の部分に地色が入らないよう、糊で模様全体を埋める。
(8)地染め:「引き染」ともいわれ、着物全体の地色を刷毛を使って染める。
(9)蒸し:地染めが乾いた後、生地を数十分蒸して染色を定着させる。
(10)水洗:糊や不要な染料を流水で洗い流す。以前は自然の川で行われた「友禅流し」は、金沢の風物詩となっていた。
(11)仕上げ:乾燥・湯のしという工程を経て、彩色の仕上げをし、加賀友禅が完成する。

ライター鈴木
ライター鈴木

とてもたくさんの工程があるのですね!

牧野さん
牧野さん

私はすべての工程を一人でやっています。全ての工程を覚えるのはかなりの時間がかかりました。

理想の「糸目」を目指して

参考

「糸目」とは:
「糊置き」の際に置いた糊を洗い流したときに現れる、白い輪郭線のこと。「糸目」のラインが模様全体の雰囲気を左右するため、「糊置き」には熟練の技が求められる。

ライター鈴木
ライター鈴木

糊を作る上で大切にされていることは何でしょうか。

牧野さん
牧野さん

加賀友禅の糸目はもち糊の為若干黄みを帯びるのが特徴なのですが、そうすると、どうしても古っぽく見えてしまうのですが、それを真っ白にし、かつ味わいのある線を描けるような糊を目指しています。

ライター鈴木
ライター鈴木

糊のつくり方次第で、「糸目」の味わいも変わってくるのでしょうか?

牧野さん
牧野さん

配合によって、黄ばみやかすれ具合は変わってきますね。糊はつくる人それぞれが研究されて配合をしています。

ライター鈴木
ライター鈴木

糊づくりの段階から、すごく工夫されているのですね。

牧野さん
牧野さん

もちろん引くときもかなりこだわっています。線に味わいを出そうとして、汚く引くわけにはいきません。綺麗に仕上げつつも、味わいを出すのが難しいですね。

ライター鈴木
ライター鈴木

糊置きを含めた全工程をひとりで行うのはやはり大変なのでしょうか?

牧野さん
牧野さん

ひとりでできる方がいいと私は思っています。自分がデザインしたものを下絵、糊置き、彩色と自らの手で行うことで、理想の形になりますし。

ライター鈴木
ライター鈴木

牧野さんが思い描いた形を、ぶれることなく、ご自身の手でつくり上げることができるんですね。

ライター鈴木
ライター鈴木

全部の工程ができるからこそ、小物作品も自らつくって発信することができていると思います。

加賀友禅作家・牧野顕三さんのこだわり(2)「片羽刷毛」と「ぼかし」

作品で必ず入れるのは「加賀五彩」と「ぼかし」

 

ライター鈴木
ライター鈴木

「加賀友禅」といっても、時代の流れや作家さんによって、技法の取り入れ方にも違いがあると思います。牧野さんは、加賀友禅の技法をすべて使われていますか?

牧野さん
牧野さん

「加賀五彩」と「ぼかし」は入れていますね。

ライター鈴木
ライター鈴木

そうなんですね!加賀五彩は色がはっきりとしているので、取り入れるのは難しいのではないですか?

牧野さん
牧野さん

そうですね。色合いも少し古くさいイメージがありますし、最近はやわらかい配色がトレンドですので取り入れない方もいらっしゃいます。でも、古風なところも加賀友禅の魅力だと思いますね。

ライター鈴木
ライター鈴木

確かに、古風であるからこそ、加賀友禅ならではの品格がかもし出されるように思います。その中でも、現代に合うような作品にするために工夫されていることはありますか?

ライター鈴木
ライター鈴木

作品の中に少し白を使うことで、抜け感を出したりします。また逆に明るい色合いのときは、軽くなりすぎないように、例えば柄が少ないものは強い色を使うなどして、常にバランスを取るようにしています。

加賀友禅の写真

ライター鈴木
ライター鈴木

すべて加賀五彩にするのではなく、色使いを少し変えていくことで、現代に合った加賀友禅を生み出されているのですね!

ライター鈴木
ライター鈴木

ちなみに、加賀友禅の技法として有名な「虫食い」の技法は使われますか?

牧野さん
牧野さん

私は必ず入れるようにしています。「虫食い」は作家によってそれぞれの表現が有り「虫食い」一つだけ取ってもも色々な個性を楽しむことができますよ。

ライター鈴木
ライター鈴木

牧野さんの作品では、現代に合わせた工夫がされつつも、加賀友禅ならではの魅力が伝わるように、伝統的な技法も取り入れられているんですね!

「片羽刷毛」:加賀友禅の「ぼかし」に欠かせない匠の道具

牧野さんが普段作業で使用する刷毛を見せていただきました。

片羽刷毛の写真

牧野さん
牧野さん

加賀友禅の特徴でもある外ぼかしは、「片羽刷毛」を使って表現されます。

加賀友禅 ぼかしの作業

ライター鈴木
ライター鈴木

普通の刷毛は毛先がまっすぐに切りそろえられていますが、これは片方が高くなって、斜めに切りそろえられていますね!

牧野さん
牧野さん

「片羽刷毛」は加賀友禅の特徴でもあります。先に刷毛に水を含めておき刷毛の高くなっている方に染料を付けてぼかしてゆきます。

ライター鈴木
ライター鈴木

普通の刷毛とはどう違うのですか?

牧野さん
牧野さん

片羽を使うと、輪郭がくっきりするのが特徴です。その分輪郭を強調しすぎてしまうと、デザインが固くなってしまいますので、輪郭の濃さを意識しています。

ライター鈴木
ライター鈴木

本当に細かいところまで、加賀友禅の魅力が最大に発揮されるようにという、牧野さんの想いや努力がつまっているのですね!

グラフィックデザインから京友禅、そして加賀友禅へ:牧野さんの歩み

ここからは作品から少し離れて、牧野さんと加賀友禅との出会いについて伺います。

学生時代 :デザイン科から工芸への憧れ

ライター鈴木
ライター鈴木

工芸に興味を持たれるようになったのは、いつでしたか?

牧野さん
牧野さん

高校時代です。元々デザイン科でグラフィックの勉強をしていましたが、同じ学校に工芸科もあって、そちらを見ているうちに、次第に工芸に魅力を感じるようになりました。

ライター鈴木
ライター鈴木

どうして工芸に惹かれたのでしょう?

牧野さん
牧野さん

紙の上の鉛筆の図案より、手を使ってモノをつくる方が自分には向いていると思ったからです。工芸は自分でつくりたいものが実際に手に取れる形となっていく。それで工芸が良いと思うようになりました。

ライター鈴木
ライター鈴木

牧野さんのように、デザインから工芸の世界に入る方は珍しいのでしょうか?

牧野さん
牧野さん

工芸の人は意外とデザインから入ってきてる人は多いんですよ。デザインも工芸もクライアントの求めに寄り添うという点で共通しているところがあるのではないでしょうか。

京友禅の図案製作に関わった京都時代

ライター鈴木
ライター鈴木

その後、どのようにして工芸の世界に入って行かれたのですか?

牧野さん
牧野さん

学校にきた求人の中に、たまたま京友禅の図案制作のデザイナー募集がありました。テキスタイルの図案制作なら、平面ということでグラフィックに近いので、やってみようか、ということになりました。

ライター鈴木
ライター鈴木

卒業してすぐ工芸の世界に入って行かれたんですね!京都時代は、具体的にどういうことをされていたのでしょうか?

牧野さん
牧野さん

京友禅の図案を描いて、下絵を描くところや染め屋に持って行ってました。そのときも職人さんの姿をたくさん見て、手で何かをつくることへの思いが強くなっていったと思います。

ライター鈴木
ライター鈴木

京友禅は分業でつくられるので、それぞれの工程の専門の職人さんから、モノづくりへの強い思いが感じられそうですね!

加賀友禅作家・由水十久氏(ゆうすいとく)氏への入門

ライター鈴木
ライター鈴木

でもなぜ、京友禅から加賀友禅の世界に入られたのでしょうか?

牧野さん
牧野さん

京都にいた頃はちょうど加賀友禅ブームで、加賀調の作品の図案を描くことがありました。その際に資料で調べていくうちに、少しずつ加賀友禅に興味が出てきました。

ライター鈴木
ライター鈴木

同じ友禅とはいえ、京友禅と加賀友禅はデザインや技法なども異なり、雰囲気も違いますね。

牧野さん
牧野さん

勉強した際に加賀友禅作家の作品集も見ていて、その中でも由水十久先生の作品に惹かれました。先生の作品は童子を着物の柄に取り入れた個性ある表現と落ち着いた色調が個性的で由水先生から加賀友禅を学びたいとと思いました。その後手紙を出して、由水十久氏の元に弟子として入門することが叶いました。

ライター鈴木
ライター鈴木

直接お手紙を出されたのですね!そして、そこから牧野さんの加賀友禅作家への歩みがスタートしたのですね。

牧野さん
牧野さん

加賀友禅の世界に入って40年以上経ちますが、学生時代のデザインの勉強、京友禅の図案制作と共に由水先生から受けた作家としての心構えが今の私の創作のベースになっていると思います。

加賀友禅の小物をつくる

着物制作の合間に作成を始め、20年以上

ライター鈴木
ライター鈴木

加賀友禅の小物は、いつから始められたのですか?

牧野さん
牧野さん

もう20年以上になります。基本的に95%は着物制作ですので、小物は仕事が空いたときに、趣味のように少しずつ制作し始めました。

ライター鈴木
ライター鈴木

かなり前から小物もつくられていたのですね!着物と小物では、制作する上でどんな違いがありますか?

着物と小物を作る上で大切にしていること

加賀友禅図案の写真

牧野さん
牧野さん

着物でも小物でも、お客様が何を求めているかを知ることが大切だと思います。

牧野さん
牧野さん

この考え方は、グラフィックデザインや京都時代の経験があったからこそだと思います。京友禅は、まずどのようなものが売れるか、どのような色が流行かを調べてからモノづくりを始めていきます。

ライター鈴木
ライター鈴木

図柄などを考える前に、まずそこから始まるのですね!

牧野さん
牧野さん

日常の暮らしの移り変わりにより着物に求められるものも変わって来ておりかつてのような礼装として用いる着物から和の文化に憧れのある若い世代の着物への関心は広がりを見せていると思います。

ライター鈴木
ライター鈴木

一方で、小物において大切にされていることは何でしょうか?

加賀友禅扇子の写真

牧野さん
牧野さん

小物は飾ることが目的ですので、「インテリアとしてどういうものが求められているのか」を考えてつくっています。

ライター鈴木
ライター鈴木

着物にしても小物にしても、作品をつくられる前には、必ず使われる方の気持ちを考えていらっしゃるんですね!

牧野さん
牧野さん

しかしながら、小物作品の方がデザインに関しては自由度が高いです。「飾る」ということが目的ですので、表現がしやすくなるんですよ。

小物の柄は「四季の移ろい」がテーマ

ライター鈴木
ライター鈴木

小物作品ではどのような柄を表現されているのでしょうか?

「染めの四季」の作品

牧野さん
牧野さん

最初は、着物でも描いていた草花が主な柄でした。しかしそれだけではおもしろみがないと感じ、鳥や虫も描くようになりました。

ライター鈴木
ライター鈴木

「染の四季」の作品一つひとつに、自然の中の情景の一コマを切り取ったような、ストーリーが描かれているような気がします!

牧野さん
牧野さん

そうですね。草花と小動物の様子から、物語が生まれるんですよ。その方がお客様にも伝わりやすいのかな、と思いました。

ライター鈴木
ライター鈴木

小物で描かれている柄を着物で表現することは難しいのでしょうか?

牧野さん
牧野さん

昆虫や鳥などは人によっては嫌われる方もいらっしゃるので着物の場合はあまり入れないようにしています。

小物にしかない、金沢ならではの特徴

ライター鈴木
ライター鈴木

そのほかに、小物にしかない特徴はあるのでしょうか?

牧野さん
牧野さん

「金箔」を使っていることですね。金沢は金箔の産地でもあります。着物では入れませんが、小物ではアクセントとして入れています。金箔の輝きで一気に柄が引き立ちます。

金箔が見える小物の写真

ライター鈴木
ライター鈴木

金箔を入れることは難しいのでしょうか?

ライター鈴木
ライター鈴木

そうですね。布の風合いを損なわず、かつ剥がれないようにするのが難しいですね。金箔は、産地ではありますが、表現で使用する人はほぼいませんので、独学で勉強しました。

ライター鈴木
ライター鈴木

金箔を布に定着させることが大変なのですね!この金箔は、加賀友禅の扇子でも使われているんでしょうか?

牧野さんがつくる加賀友禅の扇子の魅力

牧野さん
牧野さん

そうですね。扇子でも金箔を入れています。

「染めの四季」の扇子

ライター鈴木
ライター鈴木

金箔があることでより上品に見えますね!

牧野さん
牧野さん

扇子は実用品としてはもちろん、インテリアとしても飾れますので、用途の幅が広く、いろいろな形で楽しんでもらえると思います。

ライター鈴木
ライター鈴木

パネルや額絵とはまた違った味わい方が、扇子にはありますよね!

牧野さん
牧野さん

加賀友禅の扇子は昨年からつくり始めました。きっかけは、小物作品を制作する中で、実物のイメージがなかなか伝わらないことがあったからです。

ライター鈴木
ライター鈴木

確かに、サイズが記載されていても、実際に手に取るまでイメージしにくいことがあるかもしれませんね。

牧野さん
牧野さん

その点、扇子ならば、どういうものか誰でもイメージできますし、用途も多く、お土産や海外のお客様向けにも使っていただけるかな、と思いました。

ライター鈴木
ライター鈴木

そうですね!扇子は海外のお客様にも人気がありそうですね!

加賀友禅をつくる上で大事にしていること:「手の味わい」と「作り手の心」を伝える

最後に牧野さんに、加賀友禅をつくる上で一番大切にされていることを教えていただきました!

一番のポイントは「手の味わい」を感じてもらうこと

牧野さん
牧野さん

私がいつも心がけていることは、お客様に手仕事の「手の味わい」を感じていただく、ということです。

ライター鈴木
ライター鈴木

「手の味わい」、ですか!

牧野さん
牧野さん

はい。加賀友禅は「ぼかし」や「にじみ」といった、職人が「手でつくった」という味わいを感じられるところが良さだと思うんですね。つまり、「手の味わい」こそが、加賀友禅の生命線だと思っています。

ライター鈴木
ライター鈴木

現代はモノが溢れていますが、手の味わいが感じられるからこそ、愛着が湧きますし評価されていくのかな、と思います!

牧野さん
牧野さん

私の作品を通して、友禅の手仕事の魅力を皆様にお伝えできたら幸いです。

形をつくるだけでなく、ハートを伝えたい

ライター鈴木
ライター鈴木

そのほかに、モノづくりで大切にされていることはありますか?

牧野さん
牧野さん

作家は作品を実際につくる前の、テーマやモチーフ選びの段階から、「いかにお客様の心に伝わるか、琴線にふれることができるか」を考えています。

牧野さん
牧野さん

形をつくるだけでなくハートが伝わるよう、作品の中の詩情が伝わるよう、これからも想いをこめて、モノづくりをしていきたいと思っています。

ライター鈴木
ライター鈴木

改めて、つくり手としての牧野さんの想いを伺うと、作品の見方がまた変わります!

牧野さん
牧野さん

身近に飾っておける「染の四季」で、加賀友禅の良さを日常で感じていただけたら嬉しいです。

加賀友禅 扇子
「染の四季」扇子で加賀友禅を身近に味わう

「染の四季」扇子の写真

加賀友禅作家・牧野顕三さんが作る「染の四季」シリーズでは、小物作品を通して気軽に加賀友禅を味わうことができます。

松・竹・梅が表現されたこの扇子は、上品かつ華やかな雰囲気で、お正月にふさわしい作品となっています。扇子として使うのはもちろん、インテリアとしても楽しめます。このシリーズでは、春夏秋冬それぞれの趣ある自然の情景を描いた、4種類の扇子があります。

染の四季
【加賀友禅】 扇子 男女兼用 松竹梅

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まとめ

気軽に加賀友禅を楽しむことができる、「染の四季」の小物シリーズ。日本の美しい自然や四季の移ろいの中で繰り広げられる様々なストーリー、そして加賀友禅の魅力である、手で作り出す独自の味わいを感じてみてください!

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