本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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版木に刷られた紋様を和紙に手刷りすることで生まれる独特の風合いが魅力の「江戸からかみ」。その技術と魅力を継承するため、2022年に新ブランド『景美風月』が誕生しました。
今回は、トータルデザインを担当する造形作家・デザイナーの鈴木尚和さんにブランドに込めた思いや魅力をお伺いしました。
江戸時代・嘉永年間に日本橋で創業した唐紙の工房。湯島、埼玉八潮と拠点を移しながら、版木に刷られた紋様を和紙に手刷りする昔ながらの手法を守り続け、高い技術を継承している。現在、工房で唐紙師を務める小泉幸雄氏は伝統工芸士、東京マイスター、選定保存技術保持者などに認定されており、旭日双光章叙勲を受賞。浜離宮『松のお茶屋』をはじめとする文化財の復元にも携わっている。
造形作家・デザイナー 鈴木尚和氏
1982年 多摩美術大学卒業。1988年 造形作家・デザイナー(SPAZIO WORKS代表)として独立。現在は、作家として全国各地にオブジェやモニュメントを設置する他、インテリア・環境&空間デザインといった幅広い領域で活躍。地方自治体の企画やデザインアドバイザーも務め、地方に眠る技術を生かしたプロダクトデザインやブランディングを行なっている。
手漉き和紙に、江戸からかみの技法を用いて施された満月や三ヶ月のモチーフが目を引く『景美風月』の商品ですが、そもそも“からかみ”とはどのような物なのでしょうか?
平安時代に唐から伝来し、当初は和歌や手紙を書く紙として上流貴族の間で用いられていました。中世以降、屏風や襖紙としての使用が盛んになり、江戸幕府の開幕以降は江戸の街づくりとともに需要が拡大。町人文化を反映し、独自の発展を遂げたと言われています。
歴史ある江戸からかみですが、近年需要が減少しているそうですね。
ライフスタイルの変化により、和室を設えた住居が減少し、江戸からかみの襖紙としての需要も縮小しています。またからかみをはじめとする伝統工芸は日本の宝であるにも関わらず、どのような工程を経て一つのものが作られているか、どうして質が良いのか、価格が高いのかといったことを若い人たちに理解してもらうための教育が抜け落ちていることも大きく影響していると考えています。
そのような背景の中で誕生したのが今回のブランド『景美風月』なんですね。
襖紙としての需要が減りゆく中で、インバウンド狙いの小物制作といった取り組みを唐紙の工房である唐源さんが先に始められていましたが、コロナの影響を受け、海外からのお客様が来なくなってしまったことから、危機感を強められてご相談いただきたことがきっかけでした。
鈴木さんはどのような役割を果たされているのでしょうか?
職人さんがいくら良いものを一生懸命に作っても、そのものの魅力がきちんと伝わらなければ、多くの方に手に取っていたただくことは難しい。そこで、僕はブランドのコンセプト作りやデザインといった部分を担い、アイデンティティを高めることに注力しています。作り手とブランディングを行う人、BECOSのように売り場を提供する人たちが協力体制をしっかりと築いていくことがとても重要だと考えています。
ブランディングを行う上で大切にされていることはありますか?
時代の流れとともに和室や床の間、仏間など大切な“間”を端折ってしまったことで、日本人らしい心も失ってしまったのではないかと感じています。私は、その失われた心や忘れられている大切なものを取り戻すことができるよう意識したブランディングやもの作りを行うことが、失われつつある伝統工芸を再び盛り上げることに繋がると考えています。
新しい商品を作る上で意識されたことはありますか?
からかみの技術を継承するだけでなく、今後も拡大していくためには、常に新しいことに挑戦し続ける必要があると考えています。そこで、今回は従来のからかみを組み合わせるだけでなく、一つのテーマを作ってブランドを構築することにしました。
メインのモチーフとなっている“月”のことですね。
日本人には“月”に親しみや特別な感情を抱く人も多く、アイデンティティを感じる存在であるということから、“月”を選びました。満月にも三ヶ月にもそれぞれの良さがあり、個人的にもとても魅力あるモチーフだと考えています。
確かに景美風月の商品を眺めていると、心が満たされるというか和むような感覚を覚えます!商品に利用されている手漉き和紙にも相当こだわられているそうですね。
普通に紙を仕入れて刷るだけではつまらないと、素材や染料にもこだわったブランドオリジナルの紙をゼロから作ることにしました。手漉き和紙には抗菌作用があるといわれる化石サンゴを封じ込め、紫蘇、墨といった自然由来の染料のみで彩色しています。
紙をゼロから作られたとは!非常に苦労を伴うことだと思うのですが、なぜそのような道を選ばれたのでしょうか?
細部にまでとことんこだわったものに今、挑戦しておくことで、将来的には神社仏閣の襖といったものを、天然由来のもので全て染めてくれといったご依頼に繋げることができればと考えています。
満足のいく紙が出来上がるまでにとても時間が要されたとか?
扇子に関しては半年ほどかかりましたが、妥協を許さなかった分、扇子であおいだ時には自然由来の素材ならではの生命力を感じていただけるようなものに仕上がったと感じています。
素材のいぶきや職人さんの魂が込められた商品たちは持つ人のパワーやエネルギーまで、高めてくれそうですね。
扇子ケースには丹後ちりめんに月面柄を施したものを用いたりと、付属のアイテムや外装などにも趣向を凝らしています。美しいもの、本当にいいものを手にすることでしか得られない満足感や高揚感をお客様には是非、味わっていただきたいですね。
2022年9月にスタートされたばかりの『景美風月』ですが、今後の展望をお聞かせください。
唐源の唐紙師である小泉幸雄さんは、文化財の復元に携わるなど、非常に高い技術と実績のある方です。長期的な目標としては、景美風月で挑戦した新たな取り組みを足がかりに、世界や歴史に名を刻むような大きなプロジェクトへとつなげていきたいと考えています。
景美風月が良いスタートを切れるように、私たちも応援させていただきます!短期的には、どのあたりを視野に入れていますか?
短期的な目標としては、伝統柄を生かしながらも革新的なインパクトを与えられる商品をコンスタントに生み出していきたいですね。また着物や漆といった伝統工芸とも掛け合わせていくことで、伝統工芸業界自体を盛り上げていくきっかけづくりができればと考えています。
唐紙は、現代でも広く使われている「紙」という素材だからこそ、他の工芸とのコラボも期待できますよね!楽しみにしております!
今回の取材を通して、版木を用いて手刷りされた江戸からかみならではの、華がありながらも、どこか温かみのある風合いにすっかり魅力されました。素材から装飾までこだわりの詰まった景美風月の商品を通して、職人の高い技術を手元で実感できるとはなんとも贅沢なことですね。私も奥深い江戸からかみの世界をじっくり堪能してみたいと思います。
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