本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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奈良時代に誕生した「京扇子」。長い年月を経て京都の風土と文化に育まれ、今に受け継がれてきました。他地方にはない繊細な美しさは海外からも注目を集め、外国人が京都で購入するお土産の代名詞としても知られています。
今回はそんな京扇子の歴史や特徴、所作などについて、京都の老舗扇子店「大西常商店」の大西里枝さんに伺いました。
江戸時代に創業。大正初期まで元結(日本髪を結うための和紙製の髪留め具)の製造業を営んでいたものの、日本髪の衰退により元結と同じ和紙を使った扇子製造に着手。大正2年から扇子製造所として再創業した。以来100年以上にわたり、扇子の製造から販売まで一貫した事業展開を行う。近年では扇子をモチーフとしたフレグランスを発売するなど、伝統に新風を吹き込むものづくりにも挑戦する。
奈良時代に誕生後、京扇子はどのような経緯を経て今の形となったのか教えてください。
京扇子のルーツは木簡という薄い木の板を重ねた「桧扇(ひおうぎ)」で、文字を書きとめる筆記用具として活用されていました。平安時代の中期に入ると、数本の竹に紙を貼った「蝙蝠扇(かわほりおうぎ)」が作られました。この頃の絵画には扇を持つ貴族たちの姿が描かれたものが多いです。
はじまりは木の板の扇子だったのですね。鎌倉時代からはどのように変化したのでしょうか?
鎌倉時代には蝙蝠扇は中国に渡り、室町時代には唐扇として日本に逆輸入されました。それまでの日本の扇子は片面だけに扇紙が貼られていましたが、唐扇の影響で両面張となったのが大きな変化です。室町時代には庶民の使用が許可され、能や狂言、日本舞踊、歌舞伎、茶道など広く用いられるようになりました。安土・桃山時代にはヨーロッパへの輸出が始まり、絹を扇面に貼った「絹扇子」が海外で生まれ、さらに逆輸入されました。江戸時代に入ると扇子づくりは冠、烏帽子づくりと共に「京の三職」として、幕府の保護を受けるほどの重要な産業となりました。
歴史や文化と共に発展してきた道具なのですね。京扇子は完成までどれくらいの工程を踏むのか教えてください。
大きく分けると「骨作り」「紙加工」「絵付け」「折り加工」「仕上げ加工」の5つの工程があり、さらに細かく分類すると80以上にも及びます。それぞれの工程を専門の職人が受け持ち、たとえば竹から扇子の骨を作る骨屋、扇面を作る紙屋、絵を描く絵屋、紙を折る折屋、最終加工を行う付け屋などが存在します。完全分業制であるため、高品質な製品に仕上げることができると言えますね。
職人さんのリレーによって生み出されるのですね。ちなみに京扇子はいくつくらいの種類があるのでしょうか?
扇いで風を起こすための「夏扇子」、主に日本舞踊などで使われる「舞扇子」、茶道の場で使われる「茶席用扇子」、着物の装飾品として使われる「祝儀用扇子」、床の間や玄関に飾る「飾り扇子」の4つがあります。
夏扇子は女性用や男性用に分かれているうえ、描かれる模様やサイズなどもさまざまですね。
そうですね。たとえば薄い和紙を三層に重ねた「女物紙扇」は強い風を起こせて、耐久性に優れているのが魅力です。「女物絹扇」は正絹や綿などの薄い布が貼られ、涼やかな見た目を楽しむことができます。
京扇子は白地を残した絵柄が多いという印象を受けます。これはどのような意味があるのでしょうか?
“余白の美”を大切にしていることも京扇子の特徴です。絵柄を全面に広げるのではなく一部にあしらうことで、扇子の外に広がる世界を楽しむのが粋とされます。
扇子の正しい扇ぎ方を教えてください。
正式に決まっているものではありませんが、女性の場合は手の甲を相手側に向け、親指と四本の指で骨を挟んで扇ぐと優雅に見えます。男性の場合は、要の部分を握り、親指を相手側に向けて扇ぐのが伝統的なスタイルですね。
「扇ぐ」以外にはどのような場面で使われるのでしょうか?
お祝いの席で御礼やお祝儀をお渡しするとき、扇子の上にのし袋をのせるという使い方があります。また改まった場所では、正座でお辞儀をするときに、閉じた扇子を膝の前に置いて一礼します。これは扇子を境界線にみたて、自分が相手より低い位置にいることを示すという意味があります。
大西常商店さんでは扇子の絵柄などを企画し、職人さんへ依頼すると聞きますが、大切にしていることを教えてください
最も重視しているのは高品質に仕上げることですね。また当社の独自の解釈をデザインに落とし込んだ製品にすることにもこだわっています。
伝統的な絵柄のみならず、モダンなデザインも多いですね。
最近ですと、洋装に似合う扇子も幅広く手がけています。また夏だけでなく年間を通じて楽しめるデザインを採用するようにしていますね。ちなみに外国人のお客様は日本らしさを求める方が多く、伝統的な柄を選ばれる傾向です。
「色は匂へと 香りの扇 うつし香 月かげ×白檀香」はブルーのグラデーションが素敵ですね。この色彩は何を表現しているのでしょうか?
夜更けの空に浮かぶ艶めく月をイメージしました。さらにそのイメージを表現した香りを扇に閉じ込めています。扇ぐたびに手元から白檀の香りがふわりと立つので、リラックス効果も得ることができます。香りが消えたら付け直しもできるので、末長くお使いいただけるのもポイントです。
ルームフレグランス「色は匂へと かざ」シリーズも好評のようですね。
夏以外にも扇子を楽しんでいただきたいという想いのもと開発した商品です。扇骨を活用したリードスティックに香りをまとわせることで、香りと文様の両方を楽しむことができます。時間の経過によって、さまざまな香りに変化していくのも特徴です。たとえば「翠」はフレッシュハーバルからヒノキ、ヒバへ、そしてアンバー、サンダルウッドに、「玄」はクローブ、シナモン、ローズウッドから始まり、ローズ、ジャスミン、レザーへ、そしてサンダルウッド、バニラ、アンバー檜に変化していきます。
どのようなきっかけでルームフレグランスに着目されたのでしょうか?
「香りの扇」をお使いのお客さまから、香りをお褒めいただいたことがきっかけです。ご自宅の中でも楽しめるアイテムを試行錯誤する中、ルームフレグランスに辿り着きました。
扇骨の特徴をいかして、香りを導く優雅なリードスティックに仕立てました。
扇子用に薄く加工された「扇骨」は、一度まとった香り=かざを保ち続け、ほのかな香りを届けてくれます。
大西常商店
【ルームフレグランス】色は匂へと かざ 玄 | 京扇子
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
京扇子は上品さを気軽に醸し出すことができるアイテムだと思います。伝統工芸品であるため、敷居を高く感じられる方が多いですが、ぜひカジュアル感覚で試していただきたいですね。
取材を通じ、まずその京扇子の歴史の奥深さに驚かされました。特に輸出によって海外で絹扇子が誕生し、さらに逆輸入というかたちで日本で普及したという経緯には興味をかき立てられます。また京扇子と聞くと、和装で楽しむものというイメージがありましたが、もっと日常的に取り入れて良いアイテムであることを学べました。涼を取る道具としてはもちろん、大人のたしなみのアイテムとしても楽しみたいと思います。
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