本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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江戸切子と並ぶ有名なガラス工芸である薩摩切子
今回は、薩摩切子界で様々な革新的な試みを行なっている薩摩びーどろ工芸の吹き師の野村さんに、直接お話をうかがいました!
薩摩切子とは、江戸時代末期に薩摩藩によって造られた切子ガラスです。透明のクリスタルガラスの表面に1mm以上の厚さで色ガラスを被せ、深くカットを施し磨き上げます。
被せた色ガラスに厚みがあることと、色調が淡いことによってできる、カットした面の色ガラスとクリアガラスの間の「ぼかし」と呼ばれるグラデーションが特徴です。
切子を製作する職人さんには、「切子師」さんと「吹き師」さんがいます。デザインを手がける切子師さんに注目が集まりがちですが、今回は吹き師である野村誠さんに、吹き師さんならではの製造工程にまつわるお話も伺うことができました。
切子製造における吹き師さんは、一番最初の工程、すなわちガラスの生地に空気を入れて作品のベースとなる形を作りあげる役割を担っています。まさに、ガラスに命を吹き込む作業です。
ガラスを吹くときは、作業前の計画段階で精神を集中させ、吹いている最中は「無」になります。体に染み込んだ感覚を頼りに作業を進めていきます。
吹き師さんたちは、長年のご経験から、「ガラスの気分」がわかるそうです。というのも、ガラス生地は天気や湿度など、外部要因からの影響を強く受けるために、日によって異なる性質を持つからだそうです。ガラスの気分と様子を伺って、その日の製作予定を変更することもあるんだとか。
また、薩摩切子にはさまざまな色の作品がありますが、色ガラスに含まれる鉱物の割合によって硬さにばらつきが出るため、色によって膨らみ方が異なるそうです。
ガラスに含まれる鉱物の割合なんてとても科学的なお話ではあると思うのですが、それを感覚でキャッチして吹く力を調整することができるという技術力は、まさに圧巻です。
薩摩切子は、1846年に薩摩藩が開発し、その歴史が始まります。しかし、1862年に薩英戦争が勃発し、一度途絶えてしまいます。その後、1985年に約120年の時を経て復刻が始まりました。
一度途絶えてしまったものを復刻させる、という作業は果たしてどのように行われているのでしょうか。
研究者の方が書かれた資料を元に、「トライアンドエラー」を繰り返すことで、復刻作業に当たっています。
というのも、資料となる書籍には、手順などの作り方に関わる情報はほとんどなく、寸法だけしか書かれていないからです。
色に関しても、トライアンドエラーを繰り返して資料の色に近づけていくんだそうです。通常の仕事の合間にテストを繰り返し、一つの色を完成させるのには2年ほどもかかるのだとか。
現物を完全に再現できているかどうかを知る術は、一度途絶えてしまっている以上ないのですが、以前にでき上がった作品を、サントリー美術館元館長である土屋良雄氏に鑑定してもらったところ、「ほぼ完全な復元品」とのお墨付きをもらったそうです。
現在のところ、かつて存在した薩摩切子の3割程度の復刻に成功しているということです。
「復刻」にのみこだわらず、「薩摩切子」そのものの伝統を守りつつ進化させていくことが大事だと思います。
では、江戸切子と薩摩切子の違いは、どこにあるのでしょうか。
一般的に知られているのは、色の濃さとガラスの厚さです。江戸切子は、はっきりとした色調の色ガラスが重ねられており、薄いガラスに鋭角でのカットを施すことでスッキリとした印象を与えます。
対して薩摩切子は、比較的分厚いガラスに、淡い色調の色ガラスを被せ、更に鈍角でのカットを施すため江戸切子よりもやわらかい印象を与えます。
今回お話を伺った野村さんに、薩摩切子と江戸切子の違いについて、より詳しく教えていただきました!
薩摩切子と江戸切子の違いの一つとして、薩摩切子のグラスは、飲み口の部分が透明であるということがあります。
そうなんですね!その違いについてはどのサイトにも載っていませんでした!
江戸切子はガラス一枚が薄いために、透明ガラスの上に色ガラスを重ねないと耐久性を保つことが難しいです。そのため、飲み口の部分にも色ガラスが被さっており、全体として色ガラスが占める割合が多くなります。
確かに、透明な部分は少ないイメージです。
一方で、薩摩切子はガラス一枚に十分に厚みがあるために重ねる必要がなく、グラス全体の中で一番薄い飲み口の部分であっても、透明ガラスだけで耐久性を保つことができるのです。むしろ、厚みのあるガラスを削ることで口当たりがよくなるようにしています。
江戸切子はシャープな印象、薩摩切子は少しこっくりした印象を受けますが、使うガラスの厚みによって、加工方法や見た目も変わってくるのですね。
さて、伝統工芸品といえば高価格なイメージがありますが、薩摩切子は特にお値段が張る印象です。その理由についてもお伺いしました。
まず第一に、使用しているガラスが「クリスタルガラス」という高級なものであることが挙げられます。クリスタルガラスは透明度が高く美しいのですが、製造途中で気泡が入りやすく、破棄しなければいけないことも多いです。
そんな高価格なガラスが原料で、しかも分厚いとなると、作品の価格が高騰するのにも頷けます。
また、ガラスの生地が一か所で生産される江戸切子と違い、うちでは社内でガラスの生地から製作しているので、その分コストがかかります。
一貫しての製造が可能だからこそ、ということですね。
そうですね。構えている溶解炉は24時間つけっぱなしなため、窯の維持費が非常に高く、ガス代などのコストが値段に反映されていることも大きな理由ですね。
妥協のないものづくりをされてるからこその、お値段なのですね。できあがった作品を拝見すると、その価値がわかる気がします!
野村さんに、「薩摩びーどろ工芸」さんというブランドについても、お話をいただきました。
「薩摩びーどろ工芸」さんは、業界初の新色を開発されていて、これまでには「薩摩黒切子」と「薩摩ブラウン」という、薩摩切子には珍しい黒と茶色を発表されています。
それぞれの制作秘話を伺いました。
まず、黒の誕生秘話について聞かせていただけますか?
海外向けにインパクトがある色を探していたことと、鹿児島県には黒豚、黒牛、黒酢など「黒」モチーフの商品がたくさんあるのに、薩摩切子には黒がない、ということで黒をつくることになりました。
いわれてみれば、鹿児島といえば黒のイメージがあります。
「綺麗」「キラキラ」と形容されることが多かった薩摩切子の世界に、「かっこいい」「スタイリッシュ」といった要素を導入できたと思います。
新たなイメージの導入によって、薩摩切子の可能性を広げられたんですね!
黒は光を通さないために、カットをする際に回転する刃の動きがまったく見えず、作業が手探りになってしまい、とても高い技術が必要になります。他の色のカットより2~3倍時間がかかりますが、とても斬新ということで、話題を呼んだ新色となりました。
黒い切子、モダンでとてもかっこいいと思います!続いて、茶色の誕生エピソードも聞かせていただけますか?
明治維新の150周年記念のために、昔の武士たちがイメージしたような色を探していたのですが、アイディアが浮かんだのは、実は職人同士の飲み会の席でした。(笑)
そうなんですね!なんだか職人さんに親近感が(笑)
酒をかわしながら新色の話になった時に、偶然目に留まったビール瓶からインスピレーションを得て、「こんな茶色はどうかな」、と。(笑)
思っていたよりもカジュアルでした。(笑)
薩摩びーどろ工芸
【薩摩切子】satuma 薩摩黒切子 オールドグラス 桐箱入
薩摩びーどろ工芸
【薩摩切子】satuma 薩摩ブラウン オールドグラス 桐箱入
黒・茶色の切子のほかにも、新たにチャレンジされたものはありますか?
先ほどの話にも出ましたが、薩摩切子はどうしても高価なもの、年配の方が購入されるものというイメージがあります。でも、若い人にも薩摩切子の魅力を知ってほしいという思いから、外部のデザイナーとコラボして、grad.シリーズを開発しました。
ブルーとグリーンの色合いがさわやかですね!形もシンプルで、モダンなインテリアにも合いそうです。
通常の薩摩切子では、透明のガラスに色ガラスを一枚重ねてカットするのですが、このgrad.シリーズでは、色のグラデーションや深みをより美しく表現するため、「二重被せ(にじゅうぎせ)」という、透明ガラスに色ガラスを二枚重ねる手法を用いています。
そうなんですね!グラデーションが本当に美しいです。
色ガラスを厚く被せることにより、ぼかしの奥行が出るんです。二色を重ねる際には、内側に淡い色を、外側に濃い色を重ね、淡い色を「透かせる」ことによって、美しいグラデーションが生まれます。
グラスの底もまるで万華鏡のようで、どこから見てもきれいですね。形もスタイリッシュなので、若い人たちにも人気が出そうです!
新しいもの、創作ものは人気があるので、私たちも伝統を守りつつ、新しいデザインにも挑戦していきたいと思ってます。
薩摩びーどろ工芸
【薩摩切子】satuma 二重被せ そば猪口 2ヶセット (緑/瑠璃, 金赤・瑠璃) 桐箱入
続いて、薩摩びーどろ工芸で働かれている職人さんたちについて、伺いました。
野村さん自身は、昔からものづくりが好きで、何か手に職をつけたいと考えていた18歳の頃、吹き師の仕事を知り、熱いガラス相手に切磋琢磨する吹き師の世界に魅了されて、この道に入られたそうです。
とにかく、カッコよかったんです。赤い火が燃える窯の前で、はちまき巻いて、汗をかきながらガラスと格闘している姿が。これぞ男だな、と思いました。(笑)
カッコイイの、大切ですよね!(笑)ところで、「薩摩びーどろ工芸」さんには若い職人さんが多いように思いますが、いかがでしょう?
はい、そうですね。
薩摩切子自体の復刻が始まって、まだ40年ほどの年月しかたっていないため、平均年齢は約30歳と、職人たちも若いです。
県外からいらっしゃる方も多いんですか?
はい。展示会などで見て薩摩切子の世界に魅了された人々が、日本中から職人を目指してやって集まってきます。最近女性が多く、4割は女性ですね。
女性の場合は、やはり切子師さんですか?
そうですね。吹き師の女性は今のところ一人です。手先の器用さが求められる切子師には女性が多いですね。デザインにも、女性の目線はすごく大切です。
吹き師さんと切子師さんで、性格のタイプも違いますか?
切子師は作業も一人黙々と行うせいか、単独行動が好きなタイプが多いかもしれません。反対に、チームプレイで作業を進める吹き師は、プライベートでも気がつけばいっしょにいることが多いですね。(笑)
ちなみに、吹き師さん、額の汗腺が発達しすぎるという職業病があるそうです!熱い窯の前での作業環境に体が適応しているため、汗をかきやすくなっていて、冷たいザル蕎麦を食べても、わさびのせいで滝の汗をかかれるそうです。(笑)
最後に、ブランドとしての今後の展望を教えてください。
「薩摩びーどろ工芸」では、業界初の新色を開発したり、最先端のデザイナーさんとコラボしたりなど、薩摩切子をもっと多くの方に使ってもらえるよう、さまざまなな試みを続けてきました。
昔の薩摩切子を大事にしつつ、積極的に新しいことも取り入れられているのですね。
「復刻にはこだわらず、伝統にはこだわる。そして進化していく」ということを大切にしています。時代に合う新しい形に常に進化し続けることで、薩摩切子自体を存続させることが最も大きな目的です。
ほかに、ブランドとして大切にされていることはありますか?
「薩摩びーどろ工芸」は、こじんまりと小回りがきくところがいい会社だと思っています。これからも、お客さまの一人ひとりに丁寧に対応できるようなブランドでありたいと思います。
野村さんが繰り返し強調されていたのは、「ぜひ、薩摩切子を実際に使ってほしい」ということです。
購入した薩摩切子を飾られる方が多いのですが、ぜひ、特別な日だけにでも、使って頂きたいと思います。
それはどうしてですか?
工芸品は、美しいデザインだけでなく、口当たりや手触りなど、五感を使うことでより一層その魅力を味わうことができます。使うことで薩摩切子の良さを実感できる、細かな工夫もたくさん施されています。
そうなんですね!薩摩切子を実際に使うことでわかる良さもたくさんあるということなんですね。
アートのように美しく高価な薩摩切子を、飾ってただ眺めたい、という気持ちもわかる気がします。でも、実際に使うことで実感できる良さがあるということで、特別な日だけでも使用して、薩摩切子のさらなる素晴らしさに気がつく方が増えたらいいな、と思いました。
一度途絶えながらも、復刻への強い思いを持つ人々によって見事に復活をとげた、薩摩切子。
「薩摩びーどろ工芸」さんは伝統を大切にしながらも常に挑戦を続け、私たちに薩摩切子の新しい可能性を見せ続けてくれます。「薩摩切子が100年後もあって欲しい、残していきたい」という意思を持ってさまざまな試みをされる「薩摩びーどろ工芸」さんの、今後のご活躍に期待したいですね!
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