汁物だけじゃない! 創業190年の京都の老舗が教える、漆器の選び方

本記事の制作体制

熊田 貴行

BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

お椀や重箱など、古くから日本で親しまれてきた「漆器」。お正月やお祝い事はもちろん、毎日の食卓を華やかに彩る伝統工芸品です。とはいえ「お手入れが大変そう」「選び方がわからない」と思っている方も多いのではないでしょうか。

今回は、創業190年の京都の漆器専門店「井助商店」の代表、沖野俊之さんに漆器の選び方や日常使いのコツをお伺いしました。

参考

約190年前の文政年間、京都で漆商として創業。その後、漆以外の塗料も扱い始め、現在では漆器の企画や販売も手がける。2006年よりニューヨークやパリ、上海など海外展示会にも積極的に参加。2014年には国内外のアドバイザー、デザイナーと連携し、新たな漆器ブランド「isuke」を立ち上げる。日常使いしやすいシンプル&モダンが評判を呼ぶ。

井助のイメージ写真

目次

全国各地で漆器は作られている

マツモト ナホコ
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漆器といえば輪島塗がイメージされやすいですが、日本にはどれくらいの漆器があるのでしょうか?

沖野さん
沖野さん

国の伝統的工芸品に指定されている漆器は全国に23カ所あり、会津塗、輪島塗、木曽漆器、山中漆器、京漆器、琉球漆器などがあります。指定されていない漆器を含めると、数はさらに増えますね。

マツモト ナホコ
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北から南まで漆器が作られているのですね。各地で製造工程は決められているのでしょうか。

沖野さん
沖野さん

輪島塗など工程が厳格に定められている場合もありますが、それほど明確な定義はない産地が多いですね。一方で産地ごとに長い歴史があるので、作り方やデザインに個性が際立ちます。

マツモト ナホコ
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たとえば、どのような産地の漆器が特徴的ですか?

沖野さん
沖野さん

上塗りの赤の漆を研いで下地の黒い漆を見せる和歌山の「根来(ねごろ)塗」、透明感のある漆を塗って琥珀色のような色合いに仕上げる飛騨の「春慶塗」などは個性的ですね。また京都の「京漆器」は古くから茶道具に用いられてきたため、全体的に繊細な作りです。

器のイメージ写真

マツモト ナホコ
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ちなみに、黒や赤だけでなく、木目がそのまま見えている器も漆器になるのでしょうか?

沖野さん
沖野さん

そうです。 木目が見えているものは“塗り”がされてないように感じますが、木地に水が浸み込まないように、防水機能として漆が塗られているのですよ。

漆器選びのコツは3つ

マツモト ナホコ
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そうなのですね!漆器を選ぶ時に押さえるべきポイントを教えてください。

沖野さん
沖野さん

漆器の構成要素は、大きく分けると「素材」「塗り」「加飾」の3つ。こ の3要素をポイントに選んでいくといいでしょう。「素材」には木を削ったものや、木の粉を固めたものなどがあります。「塗り」は木目が見えているものがよいか、それとも木目を塗りつぶしたものがよいか。さらに「加飾(金や銀で描かれた蒔絵など)」がある方が好みか、または塗りだけのシンプルなものがよいかといった具合に見ていくのがおすすめです。

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

「〇〇塗」と産地にこだわらなくてもいいのでしょうか?

沖野さん
沖野さん

その通りです。先ほどもお話ししたように、同じ産地のものでも見た目や質感はさまざまです。当店でもお客様には、まずは素材や塗り方、デザインを重視してお選びいただくようお伝えしています。

軽さと断熱性の高さが漆器の魅力

マツモト ナホコ
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漆器ならではの機能性を教えてください。

沖野さん
沖野さん

軽いことと、熱の伝導率が低いことですね。手に持っても重たくなく、汁物も熱さを感じにくいので、汁椀として使うのは理にかなっていると言えます。お猪口も同様で、漆器のものは熱燗でも容易に手で持つことができますね。また素材が木なので、口当たりが柔らかなのも大きなポイントです。

マツモト ナホコ
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熱い料理や飲み物に漆器は威力を発揮するのですね。

沖野さん
沖野さん

そうです。陶器のお 碗ですと手で持つのが少々辛いですし。最近ではコーヒーカップや湯呑みとして使える漆器も充実しています。汁椀はお味噌汁やお吸い物だけでなく、スープに使用するのもおすすめです。

漆器のイメージ写真

漆器は和洋どんな料理にも合う

マツモト ナホコ
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“漆器=和食”と決めつけなくていいのですね!

沖野さん
沖野さん

そうです。基本的にどんなお料理にも使えます。当店でもお客様から「このお椀に〇〇を入れて大丈夫ですか?」と質問を多く受けます。固定概念にとらわれず、自由に楽しんでいただきたいですね。

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

漆器に盛り付けると映えるお料理を教えてください。

沖野さん
沖野さん

赤や黒の漆器には淡い色のものがおすすめです。お豆腐や白身魚、サラダなどは色のコントラストにメリハリがついておいしく見えます。ご飯やおかゆもいいですね。ポタージュスープやサンドイッチなどの白系のお料理も漆器と相性が良いと思います。

マツモト ナホコ
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沖野さんのご自宅ではどのように漆器を使われていますか?

沖野さん
沖野さん

温かいうどんやお蕎麦は漆器の大きな鉢で味わっています。手で鉢を持っても熱くない上、口当たりも良いのでお出汁も一層おいしく感じます。また枝豆は黒漆の器に入れています。グリーン×黒と綺麗ですよ。

重箱のイメージ写真

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

“重箱=おせち”というイメージがありますが、普段使いするならどんな方法がありますか。

沖野さん
沖野さん

例えば三段の重箱でも三段すべてでなく、一段だけ気軽に使うというのがおすすめです。ちらし寿司を入れると映えますよ。蓋付きのお菓子入れにしてもいいでしょう。乾燥を防げますし、ダイニングテーブルに置いておけば気軽に楽しめますしね。

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

色々な使い道があるのですね!お菓子入れとは思いつきませんでした。

沖野さん
沖野さん

ちなみに京都市内の外資系ホテル様に、アフタヌーンティー用として当社の重箱をご活用いただいています。スイーツや果物を並べて、和洋折衷な雰囲気でご提供されているようです。

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

アフタヌーンティースタンドは三段なので、たしかに重箱で再現できそうですね。これは自宅でも取り入れたいアイデアです。

沖野さん
沖野さん

ひと昔前の重箱といえば、 蒔絵や沈金など加飾されたものが主流でしたが、最近は木目の 見えるものや塗りだけのシンプルなテイストが多いです。リーズナブルなものも多く、当店で最も売れているのは1万円前後のものですね。運動会のお弁当で使われるお母さん方も多くいらっしゃいます。

漆器の正しい使い方とお手入れ方法

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

ちなみに漆器に入れてはいけない食材はありますか?

沖野さん
沖野さん

基本的にはどんなものでも大丈夫です。強いて言うなら、沸騰したばかりの熱いお湯や汁物をそのまま入れると、漆が白くなる可能性があるので要注意です。「白化」という現象ですが、一度変色すると元に戻らないので気をつけてください。

マツモト ナホコ
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毎日使いながら、新品のような状態を保たせる裏技はありますか?

沖野さん
沖野さん

流石に 新品のような状態をずっと保つというのは難しいですね(笑)。ただ漆はもともと半透明の茶褐色をしていて、時間が経つとその透明度が増して きて、色合いや表情が変わっていきます。逆にそんな経年変化を楽しんでもらうのも漆の醍醐味。ぜひ色に着目しながら楽しんでみてください。

マツモト ナホコ
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漆器を使う上で、気をつけるべきポイントを教えてください。

沖野さん
沖野さん

素材が金属や陶器に比べ柔らかいので、ステンレスのナイフやフォークが当たると傷がつきやすいです。スパゲッティを食べる時は木素材のものを選ぶと良いでしょう。

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

洗い方にコツはありますか?

沖野さん
沖野さん

長時間水に浸けっぱなしにするのはおすすめできませんが、それ以外は普段と同じように洗って問題ありません。できれば洗剤を水で少し薄め、柔らかめのスポンジで洗うのが理想的。洗う際には陶器やガラスにぶつけないように気をつけていただきたいです。また 食洗器、乾燥機は基本使わない方が良いのでその点はご注意ください。

漆器のイメージ写真

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

保管で注意すべきことがあれば教えてください。

沖野さん
沖野さん

漆器は乾燥すると、木が反ったり、漆にヒビが入ってしまうことがあります。長期間使わない場合は、適度な湿度を与えるため、食器棚の中に水を入れたコップを置くのがおすすめです。

マツモト ナホコ
マツモト ナホコ

乾燥に弱いのですね。お気に入りだからといって、しまいっぱなしは逆効果になりそうですね。

沖野さん
沖野さん

漆器の一番の手入れは“使うこと”です。年に1回使用するだけでも乾燥は防げるので、意識していただければと思います。

日本の伝統工芸を、より身近な存在に

マツモト ナホコ
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江戸末期創業の老舗として、これからどのような目標を未来に掲げられているのでしょうか。

沖野さん
沖野さん

漆器は日本が誇る歴史ある文化の一つ。国内だけでなく、世界でも親しんでいただけるような取り組みに注力していきたいです。また漆器職人さんが少しでも潤えるように、当社としてもできることを模索していきたいと考えます。

マツモト ナホコ
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最後に、読者へメッセージをお願いします

沖野さん
沖野さん

何かと敷居が高いと思われがちな漆器ですが、陶器やガラスを使うような日常の感覚で、気軽に楽しんでいただきたいですね。食卓に1、2点取り入れるだけで、食卓が華やかになることでしょう。漆器を使うことで、より食事を特別な時間にしていただけたら嬉しいです。

あとがき

取材を通じ、漆器はもっと日常的に、自由に楽しんで良いものと実感することができました。特に重箱をアフタヌーンティーとして使うアイデアには目から鱗です。また和食だけでなく、スープやサンドイッチという洋食との相性の良さも大きな気づきでした。ぜひ日々の暮らしの中で、積極的に活用していきたいと思います。

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