本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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日本人になじみの深い「畳」。でも、畳について意外と知りませんよね!
日本三景の一つ、天橋立で有名な京都府宮津市。風光明媚なこの地で、畳作りの心と技を受け継いできたのが「畳屋辰蔵 杉本畳店」です。
今回は、まもなく創業100年を迎える老舗の4代目代表・杉本悠一さんに、日本人に長らく愛されてきた畳の魅力やモノづくりへのこだわり、また畳の未来にについてお話を伺いました。
杉本悠一
昭和2年(1927年)、初代杉本辰蔵により創業された杉本畳店(平成24年に「畳屋辰蔵 杉本畳店」に改名)の四代目代表。創業者より受け継がれる心と技を磨き続け、お客様の暮らしが心和み、はなやぐような畳づくりを志す。
中谷:
古来から日本人に愛されてきた畳ですが、その良さとは何だと思いますか?
杉本さん:
そもそも畳は「部屋の中に自然を取り込んだもの」だと私は感じています。畳の上に寝転がれば草の上にいるように癒される。そのように、五感に訴える形で日本人に影響を与え続けてきたものだと思っています。
中谷:
畳の香りにも癒されますね!
杉本さん:
い草の品種が違うと香りも違います。コーヒーやワインのような香りを楽しむ世界だと感じていて、「お茶の香り」「太陽の香り」「風の香り」と例えて、お伝えしようと試みています。
中谷:
畳の色や輝きも魅力ですね。
杉本さん:
畳の表に使われる「い草」の本来の色は、お米の稲やネギのようなはっきりとした緑色なんです。それを泥水に沈め、薄化粧をすると、なんともいえない優しい色になるんですね。
中谷:
畳は丈夫というイメージがありますが、本当ですか?
杉本さん:
使い方にもよりますが、中級ランクの品質の畳で10年、上級ランクになると15年くらいは使えます。畳表は張り替えができますので、藁床の品質が良いものであれば、半永久的に使い続けることができるのではないでしょうか。
とても長持ちするのですね!
畳表の張り替えは、畳を全て取り替えることに比べたら3分の2くらいのコストに抑えられるので、お財布にも優しいです。
中谷:
畳はどのような素材でつくられますか?
杉本さん:
畳表(たたみおもて)はい草、畳縁(たたみべり)は綿や麻や藤、中身である畳床(たたみどこ)は藁(わら)など、伝統的には天然素材を用いてつくられてきました。
しかし近年ではさまざまな材料が登場し、例えば紙を使ったカラフルな畳表、化学繊維製を使ったモダンな模様の畳縁など、表現の幅も広がっています。
また、米作りの方法が変化し、長い藁を入手するのが難しくなったこともあり、伝統的な藁床の生産が減少してしまっています。そのため、畳床は木くずを利用した工業製品を使用することが多くなっているというのが現状です。
中谷:
米作りの方法が変わったとは?
杉本さん:
田んぼでお米を刈り取る際、茎の部分も粉砕するタイプのコンバインが用いられるようになったので、砕かれていない長い藁を入手するのが難しくなりました。
でも将来的には、粉砕した藁を利用して畳床をつくったり、従来の藁床を復活させたいと思っています。
中谷:
杉本さんは天然材料にこだわられていますが、仕入れにもこだわりがありますか?
杉本さん:
上級ランクの畳をつくる際には、熊本のい草農家さんから仕入れすると決めています。い草農家とは、い草を育て畳表に織るところまでを行う職人さんで、長く美しく強いい草が育つように、また畳表として完璧な織りができるように努力されています。
私が惚れ込んでいる熊本のい草農家さんは普段はざっくばらんな性格なのですが、つくられる畳表は非常に繊細で、一般のお客様にも違いを分かっていただけます!
中谷:
国内産の天然い草は少ないのですか?
杉本さん:
1989年頃まで畳表に使用されるい草はほとんどが国産でしたが、その後、安価な中国産や化学繊維が増え、今では国産い草を使った畳表は20%程度にまで落ち込んでいます。その20%の中身はというと、95%以上を熊本県産が占めています。
ただし、その熊本でも、い草農家の戸数はこの30年間で約5,500戸から約400戸まで減少し、危機的な状況になっているのが実情です。
中谷:
国内産の天然い草の良さとは?
杉本さん:
中国製より明らかに高品質で、また天然のい草ならではの香りや手触りは、工業製品では真似のしようがありません。そして、使っていくうちに香り、耐久性、美しさなどに明らかな差がでてきます。
お客様にそれぞれの畳の特徴をお伝えし、実物の畳表に触れていただくと、やはり国産の天然い草に手が伸びる方が多いですね。
やはり、良いものは良いのですね!
中谷:
畳屋さんは、どのようなお仕事をされているのですか?
杉本さん:
畳表・畳縁・畳床の3つの材料から、最終的に畳を完成させてお部屋に納品するのが畳屋の仕事です。和室では畳を敷くスペースは木材で四方を囲まれていますよね。一見単純な仕事のようですが、実は、この畳を収める空間が一定ではありません。
地域やご家庭ごとにサイズが違ったり、スペースを囲む木材には反りがあるため、それらを採寸して一枚一枚の畳づくりに反映させることによって、隙間のない畳を施工しなくてはなりません。
中谷:
ぴったり合うようにつくるのは大変ですね。
杉本さん:
畳は湿気の関係で膨張と収縮を繰り返した上で、最終的には縮みます。空間に収まらないリスクを考えると、畳は小さ目につくった方が安全なのですが、将来縮んだときに隙間ができて埃がたまったりすると不衛生です。
だからうちの場合は、先々に畳が縮むことを想定して、少し大きめに畳をつくります。スペースぎりぎりの大きさになるので、最後の一枚を収めるまで気を抜けない仕事です。
中谷:
そのほかに、畳づくりでこだわられていることは?
杉本さん:
お客様の家それぞれで事情が違うので、細かな違いもきちんと感じられる能力、またより良いものを作れるアイディアに気付ける能力というのは、常に磨いていきたいと思っています。
モノづくりに終わりはありません。常に進化を続けていきたいと思っています。
絶え間ない努力があるからこそ、信頼できるクオリティが生まれるのですね!
中谷:
畳を未来につなげていく中で、守っていきたい部分はどこですか?
杉本さん:
畳の素材となる「藁(わら)」は米づくりから生じたもので、「い草」は田んぼの畔にでも生えている草というように、畳は自然や生活文化から生まれた生活用品です。世界的に見ても稀な、「草の上で生活する」という日本独特の文化を守り、長く未来へ受け継いでいきたいです。
中谷:
具体的にはどのような活動を?
杉本さん:
いつか、絶滅しかかっている藁床を復活させたいですね。また、い草農家さんや畳縁メーカーさんたちと共に歩み、文化としても産業としても、しっかりと畳を残していけるためにアクションを起こしていきたいです。
畳に関わる方々がチームになっているのですね。
畳作りの際にも、素材をつくっている人たちの顔が常に頭に浮かんでいます。その人たちとしっかりタッグを組んで、素材を含めて畳を未来につなげていきたいです。
中谷:
未来に向けて畳で挑戦したいことは?
杉本さん:
今一番やりたいのは、既存の畳文化にとらわれず、新しい畳の価値を創造することです。そのヒントは「部屋に敷く」という概念を一度忘れて、外の世界に畳を連れ出すことだと思っています。
中谷:
畳を外の世界に?
杉本さん:
畳はアイディア次第でもっと楽しみ方が増える素材だと思うんですね。だから世界中の方々に畳を使っていただき、「こんな使い方があるよ」と、SNSなどでも広めていただきたい。
そこで生まれた反応がまた新しい製品につながる、というような良いサイクルをつくり出したいです。
中谷:
海外市場も視野に入れて?
杉本さん:
人口減少が進んでいる中で、国内市場だけで畳文化を残すのは難しいと考えています。だから世界中に畳が送り出すことが、産業や文化としての畳づくりを継続させるためには必須条件だと思っています。また、海外の方々こそが畳の可能性を拡げてくれるのではないかと期待しています。
中谷:
日本でも和室が少なくなっていますね。
杉本さん:
日本人も畳を再定義する必要があります。今の時代、畳が家にない人が増えていると思いますが、これからは「俺、畳を持ってるよ。お前は持っていないの?」となるようにしたいです。そのためには、一枚からでも使う意義のある畳をつくることが大事だと思っています。
中谷:
畳を「一枚」単位で考えることは、発想の転換ですね!
杉本さん:
部屋に敷くものではなく、「一人一枚持つもの」というイメージですね。例えばワンルームマンションでも、薄い畳2枚くらい置くことは可能なわけです。「夜寝るときはベットで昼寝は畳だよ」とか、「畳の上で瞑想してから眠るんだ」とか。もっと畳の使い方を自由にしたいです。
畳を早速使ってみたくなりました!
生活の中に潜んでいる色々な欲望とかドキドキを叶える素材として、畳の価値が見いだせるのでは、と思っています。
中谷:
BECOSで扱っているランチョマットやコースターなどの小物は、どのようなきっかけで生まれたのですか?
杉本さん:
畳を小さくしたり、薄くすることで、気軽に畳の良さを味わってもらえるものがつくりたいと常々思っていました。そんなとき、たまたま旅行に行った福岡県柳川市のお土産屋さんで、掛川織の小物を見たのがきっかけです。
本来、掛川織は、畳や板場に敷く大きな敷物なんですが、「小物もできる」と思うと、居ても立っても居られなくて。帰宅して直ぐに柳川の農林水産課に連絡して、い草農家さんを紹介していただきました(笑)。
杉本さん:
よくコースターでは周りにフリンジを付けてありますが、端を糸で絡んで留めるというやり方にしたら、非常に見栄えも良く面白いものができました。
伝統の畳づくりの技術が活かされた小物ですね!
食卓がカラフルに華やいだり、ほのかに香るい草の良さを味わってもらえたら嬉しいです。
畳屋辰蔵 杉本畳店
【マットセット】コースター4枚 (イエロー) & ランチョマット (ブルー) 2枚
「傷んだから畳を替える」という受け身な購買動機ではなく、畳替えのときには胸躍るような楽しい購買体験をして欲しい、とおっしゃる杉本さん。
畳づくりに関わるすべての人を大切にしながら、柔軟な発想で畳の未来を見つめる杉本さんのお話に、こちらまでワクワクしてきました。
日本で世界で、畳がさまざまな生活のシーンで活躍してくれる日を楽しみにしています!
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