伝統工芸×初音ミクの可能性と伝統工芸品の未来

初音ミクを公式アンバサダーに迎え、日本の伝統的なモノづくりの職人たちが初音ミクを表現した様々な工芸作品を創作するプロジェクトです。

日本語で「工房」の定義はあいまいですが、英語では作品作りの仕事場を示す言葉には定義があります。ファクトリーは50％以上機械が作る、スタジオは50％以上を複数の人で作る、というような。このプロジェクトは「スタジオ」に当てはまるので、スタジオ=日本語で「工房」を付けました。

第一弾は浴衣・帯・履き物・手ぬぐいです。初音ミクを日本の工芸のフィルターを通した時どうなるのかを見せよう！キャラクターグッズを超えたものを！と、それぞれの分野の職人たちが本気で取り組んでいます。

私は伝統工芸は日本の貴重な文化資本と考えています。資本とは本来「お金に換える為の価値のあるモノ」という意味ですが、伝統工芸もそのひとつです。そして世界ではLVMHグループがフランスの文化資本の「収益化」に成功していますが、日本の伝統工芸はできていない点に問題意識を持っています。

伝統工芸の後継者不足の話はよく聞きますよね。その大きな原因は「儲けていない」ことなんです。

博多織職人の私の父もそうでしたが「いい物さえあれば、分かってくれる人がいて、その人が買ってくれる」という特有の価値観が職人にあるんです。

そうです。そもそも伝統工芸はあまり知られていないので、まず知ってもらう為に初音ミクをアンバサダーに迎えたんです。

コラボするなら伝統工芸の本質を伝えてくれる事が大事。それが出来るのは「サブカルチャー」や「現代アート」です。伝統工芸と相性が抜群に良いんですよ！私が手掛けたひとつで現代アーティストの小松美羽さんと有田焼をコラボ作品は、大英博物館のコレクションになりました。
初音工房では一点もので職人が技をぶつけられるアート作品も作っていきます。

初音ミクと伝統工芸には「モノづくり精神」という共通点があることも決め手でした。

Web3.0時代が到来したので、インターネットと相性が良いことも重要です。となると、初音ミクしか考えられませんでした。

それが、私が初音ミクの話をお世話になっている方に相談したところ、その方とクリプトン社は繋がりがあったのです。幕張メッセで9月に開催された、初音ミクたちバーチャル・シンガーの3DCGライブと、創作の楽しさを体感できる企画展を併催したイベント『初音ミク「マジカルミライ」』に伺い、クリプトン社の方と直接プロジェクトの話ができました。

タイミングもよかったかと。初音ミクは16歳設定ですが、今年はちょうど誕生16周年。そこで、伝統工芸のようなしっかりしたモノとのコラボもいいですね！となりました。

初音ミクを知っている職人は「面白そう！」と。職人って創作が大好きな人達なので。

逆に、知らないと「訳が分からない」という反応です。よく分からない物だと否定的になってしまう。そこで、初音ミクの本質や魅力を丁寧に説明しました。理解すると「やる意義がある」となりましたよ。

日本には紋様文化があり、「宝尽くし」など同種類の紋様を並べたデザイン形式があります。これは世界的なブランドに影響を与えるほど素晴らしいものです。そこで、初音工房ではオリジナルの紋様を作り「初音尽くし紋様」としました。

日本の紋様にはそれぞれ意味があることも伝えたいので、紋様はそれぞれ意味も構築しました。中でも「初音」の意味は大事にしました。

まずは初音ミクのファンです。ファンは日本だけでなく世界中にいますし、我々にとっては初音ミクのファンにチャネルが広がるので十分です。

すでに初音工房のSNSを通じてファンの方々とコミュニケーションをとっていますが、今後はファンからアイデアを募って我々の技術で形にする。その中で伝統工芸を伝える流れを作りたいですね。

本格的な物を求めていた方、伝統工芸や着物が好きな初音ミクファンの方からの反響が特に大きいです。SNSでの情報の広がりも早く、企業さんからの反応もあります。改めて初音ミクのパワーに驚いています。

一番人気は初音尽くし紋様の「手ぬぐい」です。手ぬぐいは用途が広く、生地にして作品を作るという方もいらっしゃいました。手頃で買いやすいと思うので、今後はファンの方が手頃に買える価格の作品も増やす予定です。

他には、「帯」が人気です。特に限定品ではないDIFFUSIONの帯は、浴衣にも使えてリバーシブルで楽しめる。それに帯にはサイズがないので選びやすく、女性用ですが男帯に仕立てられるので男性の方にも人気です。

新たな作品の準備は進んでいますし、イベントも続々と決まっています！ すでに始まっていますが、京都の「京きもの 粋 -iki-」さんでは、初音工房の浴衣、帯、草履と、着付けをセットにした レンタルを行っています。ぜひ 初音工房の浴衣で京都散策を楽しんでいただきたいですね。

目標は伝統工芸のコンプリートです！日本には沢山の工芸があり、経済産業省認定の「伝統的工芸」だけで237品目（2023年3月時点）。全てを初音ミクを通して伝えていきたいです。

もうひとつ、「初音庵」という茶室を作りたいです。茶室は日本の工芸を集積したものと考えているので。リアルとメタバースの両方を作り、中には作品をぎっしり詰め込みます。

伝統工芸は縦割りの世界なので、複数で一緒に企画を進めるのは難しい。それが今回は実現したことですね。

初音ミクという魅力的なIP、伊勢丹新宿店という素晴らしい発表の場が揃った事が大きいです。目的やゴールを職人さんがイメージできたので実現したと思います。また、短期間で準備できたことも可能性を感じる出来事です。

12月にプロジェクトが決まり2月にほぼ完成でした。通常の伝統工芸はスピード感の体制がなく役割や利益分配があいまいで、新しい企画に時間が掛かりがち。今回は役割、利益、目的を明確にした事でスピードが上がりました。短期間で非常に良い物が完成しましたよ！

まず工芸の歴史を簡単に説明すると、はじめは「祈り」の道具でした。次に王様の為、貴族、ブルジョワと対象が移り、今は金持ちの為です。

今後はみんなの為の工芸、工芸の「民主化」が始まると思います。

これまで大量生産の時代でしたが、テクノロジーの発展で伝統工芸の小ロット生産でもコストダウンが可能に。また、最近は同じものを作るのではなく、顧客それぞれの要望に対応する事が必要とされている。それも、テクノロジーによって伝統工芸でも対応できるようになっています。

先進国ではモノの「意味」に価値を感じ、「意味」を消費する世代が増えています。伝統工芸はまさに「意味」を持つモノなのでニーズに合います。それに「意味」を持つモノは心を豊かにするので、多くの人に伝えるべきとも思っています。