本記事の制作体制
BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。
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「伝統工芸」や地域のものづくりを未来につなげるため、プランニングディレクターとして幅広い活動を展開されている永田宙郷(ながたおきさと)さん。業界を牽引し、第一線で活躍されている永田さんに、「伝統工芸とは何か?」という問いにお答えいただきました。
永田宙郷(ながたおきさと)さんプロフィール
TIMELESS LLC.(合同会社タイムレス)代表・プランニングディレクター。
ててて協働組合共同代表、DESIGNART共同発起人、金継工房リウム代表。
京都造形芸術大学伝統文化イノベーションセンター研究員、京都精華大学伝統産業イノベーションセンター客員研究員。
1978年福岡生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、金沢21世紀美術館、EXS Inc.(株式会社イクス)を経て現職。「時間を超えることができる本質的なものづくり」をテーマに、数々の事業戦略策定や商品開発を行う。伝統工芸から最先端技術まで必要に応じたビジネス再構築やプランニングに多く携わる。
さまざまな地域や文化を背景にものづくりする「作り手」と「使い手」と「伝え手」をつなぐ場として2011年に「ててて協働組合」を共同発足し、2012年より「ててて見本市」(2021年より「ててて商談会」に名称変更)、2019年より「ててて往来市」、2020年にコロナ禍を背景に作り手から直接ものが買えるオンラインショップ「4649商店街」を開催。
また、国内外から多くのデザイナーが参加する「DESIGNART」の共同発起人、職人の新しい社会とのつながり方を試みる「金継工房リウム」の代表を務めながら、特許庁窓口支援事業ブランディング専門家、関東経済産業局CREATIVE KANTOプロデューサー(2014〜2016)、京都職人工房講師(2014〜2019春)、越前ものづくり塾ディレクター(2015〜2018)はじめ、各地でのものづくりや作り手のプロデュース事業に多く関わる。著書に『販路の教科書』。
「伝統工芸」とひと言でいっても、どこからどこまでを指すのか、考えると難しいですよね。永田さんご自身は、「伝統工芸」というものをどう定義されますか?
個人的には、日本文化の固有性を考えた場合、「ヨーロッパから産業革命が入ってくる以前からの文脈を持っているか」ということで考えています。
産業革命以前の文脈、ですか。
近代化が進んだのが1800年代終わりから1900年代頭なので、それ以前の生活様式に基づいてつくられているかどうか、技術的な変遷があったり、つくるものの姿が変わっても、ひもといたときにしっかりと、日本独自の、近代産業以前のものがベースにあるかどうか、ということですね
明治維新以降、流通が全国規模になったとき、ものづくりの性格が大きく変わりました。それまで藩の単位で、地産地消のように小さな経済圏でのものづくりを行っていたのが、廃藩置県後、鉄道網の発達で大きなものも輸送可能になり、全国に商品として流通するようになりました。
ものづくりと流通の形が、大きく変わっていったのですね。
京都に多く残っている寺社仏閣を除く工芸などは、富国強兵時代の1870年代から1920年代まで、つまり明治初期から大正前期頃に、海外輸出品として海外が好む形でさかんにつくられました。超絶技巧などは江戸時代はほぼなく、明治期に輸出品としてつくられ出したものです。
超絶技巧
江戸時代末期から明治時代にかけて、高度な職人技により、非常にリアルで緻密な表現を実現させた工芸品のこと。主に海外に向けて制作され、万博などで海外の人たちを驚嘆させた。七宝の並河靖之(なみかわやすゆき)、彫刻の安藤禄山(あんどうろくさん)、漆工の柴田是真(しばたぜしん)などが代表的。
それまで日本でつくり続けられていたものとは、かなり性格の違うものになっていったのですね。
はい。そういった理由から、産業革命の影響を受ける以前のものが、「伝統工芸」の裏づけになるのでは、と考えています。それ以降のものは、「近代工芸」と呼ぶべきかと思います。
時代の変化に応じて工芸は「近代工芸」となっていったのですね。
地域が今、あらためて「伝統工芸」に立ち返りたい、と考えた場合は、近代化していく日本以前の、自分たちの独自の地域性をじっくりと見直していく必要があると思います。
限られた素材の中でしかできなかった背景などを掘り起こし、その地域でなぜ始まったのか、なぜつくり続けることができたのか、自分たちのルーツを探る作業がすごく重要になってきます。
作品そのものだけでなく、つくられ続けた背景を深く理解する必要がある、ということですね。
はい。なぜその土地で職人がつくることになったのか。自分たちはどういう気持ちで、どういう姿勢で引き継いでいくのか、自分たちの中でも共有し、外にも伝えていくのが大事だと思います。
なぜ背景を知ることが、そんなに重要なのでしょうか。
工芸を理解しようとするとき、「もの」だけを見ても無理なんです。例えば友禅が、京都、加賀、江戸などで発達したのはなぜだと思いますか?
大きな町で需要があり、友禅の良さを理解する文化があったからですか?
それもあります。でも、実は水のpH値(酸性かアルカリ性か)が重要なんです。
なるほど!友禅流しにも、水が大切ですよね!
ほかにも、例えば製鉄の場合、山・川の確保が大切です。山が多くて、大昔海岸線だった場所からしか、砂鉄が多く出ません。製鉄には木炭が必要なので低木の確保、また、流通のために川の確保が必要になります。そういう意味で、その土地の形、自然が工芸には大きく作用します。
その土地により、できることが違うのですね。
ほかにも、例えば石川県の能登は「輪島塗」が有名ですよね。能登の海岸の土には、珪藻土といわれるプランクトンの死骸がたくさん埋まっています。それを焼いて水分を飛ばして粉にした「じのこ」と呼ばれるものを漆に混ぜると、漆器の丈夫な下地がつくれました。
能登は江戸時代の海辺の流通の要であった、北前船(きたまえぶね)の寄港地だったため、輪島塗は全国に広がっていったのです。
北前船(きたまえぶね)
江戸時代から明治時代にかけて、主に日本海で活躍した北国廻船のこと。上りは北陸以北から下関を経て大阪へ、下りはその逆で、後に北海道(蝦夷地)まで航路が延長された。上りの荷は数の子、昆布、ニシンなど海産物が多く、下りは米・砂糖・酒・塩などの食料品、衣料やタバコなどの日用品が多く運ばれた。寄港地周辺の経済の発達、文化の伝播に大きな役割を果たした。
その土地でできることに加え、流通の手段なども大切なのですね。
また、九州には漆器がほとんどありません。江戸時代末期、久留米藩が困窮した下級武士のために、「籃胎漆器(らんたいしっき)」という、竹網に漆を塗る技術を開発しましたが、それ以外はほとんど見かけません。理由は、九州で漆の木が生えないからです。日本ではだから、漆器はやや寒い土地、和歌山より北側に多いです。
確かに、植生も関わってきますね!伝統工芸品には、自然由来の素材が多いですものね。
和紙の場合は、楮(こうぞ)、ミツマタなどが近くで栽培できるかが鍵になるので、赤土の場合は無理ですね。地の利、というのは出てきます。
また、治めていた藩がご親藩なのか譜代大名なのか外様大名なのかでも、つくるものの意味合いが違ってきます。調度品としてつくるのか、それとも権力者として下にプレゼントするものなのか。最高級品のポジションが違ってきます。だから伝統工芸品には、地域のアーカイブ、歴史が詰まっているんです。
その地域独特の工芸ができるには、いろいろな要素が関わってくるのですね。
中国の古い本に、「天地材工」というのがあります。「天」は時代や世の中の必然・時節など、「地」は地の利やその地独特の風土など、「材」は良い素材、「工」は優れた職人技などを表します。この4つの要素が集まることで、良い工芸品が生まれる、という意味です。
この「天地材工」と歴史的背景が組み合わさって、初めて「伝統工芸」といえるのだと思います。
技術的なものだけで、「伝統工芸」というわけではないのですね。
「地」や「材」についていえば、先ほどいくつか例をあげたように、染物や織物が盛んなのは、例えば絣(かすり)などが有名なのは、綿の産地だから、というようなことですね。
あとは、時の権力者も大きいです。かつての一流の職人の奪い合いは、今でいえば超絶プログラマーの奪い合いのようなものです。だから、金銭的な投資、環境的な投資ができた当主がいるかどうかは大きかったと思います。
パトロンというのも、昔は多かったんでしょうね。
日本はパトロネーゼの国ですからね、特に一級品の工芸に関しては。世界一のお金持ち、アマゾン会長のベゾスさんの個人資産が14兆円くらいとして、豊臣秀吉は実に100兆円持っていたといわれています。昔の藩主が、ベゾスさんくらいでしょう。ソフトバンクの孫さんが1兆円くらいとしたら、日本に何十人もいた。
持っている人は、持っていたんですね!
これからの未来はAIが決めるから、経営者は皆、有能なAIのプログラマーと数学者を探していて、2~3千万あげてもいいから、とリクルーティングしていると思います。
かつては、工芸のつくり手たちにそれが行われていた。当時のハイテク技術者ですよね。今でいうとシリコンウエハーが削れたりとか、先端医療の第一人者などかな。最高級の工芸品をつくれる人は、そういう扱いだったんじゃないでしょうか。
シリコンウエハー
パソコン、スマートフォン、ICチップなど、あらゆる電気機器に搭載されている、半導体の構成部品。シリコン製で、非常に薄い円盤状にカットされる。衝撃に弱く、壊れやすい性質を持つ。
ここで改めて伺いたいのですが、「工芸」といっても、いろいろなものがありますよね。「伝統工芸」には何が含まれると思いますか?
日本の工芸の範囲は大変広いです。「工芸」とひと口にいっても、調度品、礼装具、祭礼具など、いろいろなものがあります。今、「伝統工芸」という言葉の中に、そういうカテゴリーがいくつも入っていると思います。
ひと言でまとめてしまっていますが、実は伝え方も、支援の仕方も全部違う。だからあいまいで、「伝統工芸」とは何か、と聞かれたときに、なかなか答えられない。それは、いろいろ含まれているのに、「伝統工芸」とひと言で語ってしまっているところに、原因があるのだと思います。
工芸というのは大きく分けると、5つのカテゴリーに分けられると思います。
アートや祭礼といった「美術工芸」、町で使ってきた道具など、変わってはいけないものである「伝承工芸」、木工作家の三谷龍二さんのように、民芸の発展形として作家性のある「生活工芸」、工房や法人などの形で、一代より長く続ける意志のある「手工芸」、産業化され、地域の経済や雇用のために続いている「産業工芸」の5つです。
そんなにたくさんのカテゴリーがあるのですね!
工芸の中でもこのように分かれているので、一概に「伝統工芸」といっても、起こりも役割も社会的な残り方も違うのは、当然と思います。
伝統工芸は、風土・文化・生活・流通・政治など多様な背景のもとで成熟し、無意識に僕らの中に住み着いています。また、これから日本が画一化され、均一化される中で、わずかな地域の差・地域の背景をひも解くときの、データベースの入り口みたいな役割を担っていくと思います。
昔は当たり前のように存在していた伝統工芸が、これからは自らのアイデンティティを再発見する鍵となるのですね。
はい。工芸を買うために、その土地に行きたい人が増える。オンラインやデパートなど、離れたところで美しいものを買ったり物語を手にするだけでなく、工芸が生み出された土地に出かけ、リアルに語り続けられるストーリーに触れたい人が増えると思います。
つくり手の方も、これからは地域性を意識していく必要がありますか?
いやでもせざるを得ないと思います。この地域でしかつくれないものは何なのか。自分がつくれる最高のものは何なのか。産業に行きたいか、アートに行きたいか、違う方に行きたいか。それは、つくり手の考え方によると思います。
今までは儲けるためにいっぱいつくるか、高くつくるかの二つしかなかった。地域産業としては成立しなくなる仕組みだった。ここにきて、やっと第三の選択肢が出てきたと思います。
第三の選択肢とは何ですか?
適切な量をつくり、適切に工芸と工業とが入り交じり、効率性だけを優先せず、地域性だとか、文化性などが含まれるものづくり、ということです。
これから先は、単に製造業とは呼ばれず、観光・土地の人口確保を含め、色々な思惑を背負いながら、一個の文化としてもう一度成立し直すのでは、と思います。行政にも絡んでもらわなければいけない。地元のいろいろな企業にも。情報発信も、限られた領域以外でもしていかなければいけません。
より広く、地域のいろいろな産業・文化と関わりながら、ものづくりをしていくのですね。
戦略を小手先で変えてもだめです。製造業としてうまく行っているときの戦略ではだめ。特に今、テクノロジーやEコマースが進む中、どっちの方向を向くか、と大きく語れる組織が生き残ると思います。本当の転換点で、デザイナーにカッコイイものをつくってもらおう、だめならデザイナーのせい、という考えではだめ。
製造業というものが、もう日本で行われなくなってきています。これだけグローバル化、情報化した時代では、人件費を落として安くつくる国になるか、あとは付加価値を高めてものをつくる、工芸的なものづくりをするしか残ってないと思います。
グローバル化する世の中で、日本独自のものづくりができるのが工芸、ということですね。
そうです。世界でも、わかりやすいアニメのようなコンテキストとして日本文化がピックアップされますが、地域にお金が落ちる、地域の経済を支える形にはなっていない。
現代美術家で、アニメ・ポップな画風の村上隆(むらかみたかし)さんの絵があれだけ売れても、その元になった、平安時代の絵巻物を守り続けた人たちにお金が入るわけではありません。日本じゃなくても、彼らのようなアーティストはやっていけます。
逆に伝統工芸は、地域の気候や背景を含めて成り立つものだから、日本でつくられた、その地域でつくられた工芸ということで、特別の価値がある。加賀友禅を中国・フランスでつくっても、加賀友禅ではない、ということです。文脈がつながっていないから。
工芸から「もの」の要素だけを取り出して、ほかの場所でつくろうとしても、違うものになってしまうのですね。
テクノロジーと未来についてのメディア、『WIRED(ワイアード)』の編集長の松島さんが、「今の時代で一番贅沢なのは、意味と文脈」とおっしゃっていましたが、ちゃんとルーツがあるのは、とても贅沢なことだと思います。伝統工芸は、国内・地域でしかつくれない。だから、日本がこのまま進めば、最後に残るのは伝統工芸かもしれない、と思います。
「伝統工芸」とは何か、というひと言では答えにくい問いに、歴史的な視点、古代中国の書物からの定義、工芸のカテゴリー分けなど、さまざまな方向から具体例を盛り込んでご説明いただき、「伝統工芸」というもの、さらにその未来の可能性について、よく理解することができました。
貴重なお話をありがとうございました!
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