京の捺染職人に聞く!手捺染の特徴と魅力

本記事の制作体制

熊田 貴行

BECOS執行役員の熊田です。BECOSが掲げる「Made In Japanを作る職人の熱い思いを、お客様へお届けし、笑顔を作る。」というコンセプトのもと、具体的にどのように運営、制作しているのかをご紹介いたします。BECOSにおけるコンテンツ制作ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください。

ライター松田
ライター松田

手染めと聞くと、絞りや友禅を思い出す人が多いのでは?私もそうでした!でも、「捺染(なっせん)」という伝統のある染色技法があるんです!

今回は、京都で鷲野染工場を営まれている捺染職人の鷲野城克一さんに、手捺染の特徴や魅力についてお話を聞かせていただきました!

歴史や工程など、「捺染」をはじめて知る人にもわかりやすく説明していきますので、ぜひ参考にしてくださいね!

目次

世界各地でも服地を中心に使われている伝統的な染色方法「捺染」とは

「捺染」とは

手捺染の日傘の写真

「捺染」とは、色糊(溶かした染料と糊をまぜたもの)を使って布に模様をプリントしていく技法です。その後、蒸して色を定着させ、最後は洗いをして色糊と染料の汚物を落としてしあげます。

日本だけでなく、世界各地でも服地を中心に使われている伝統的な染色方法です。

なじみのない言葉かもしれませんが、「プリント」と聞くとイメージできますよね。

一色につき一枚型を使用してプリントします。日本では友禅染めなどが代表的です。

捺染は「シルクスクリーン」と呼ばれることもあり、手染めのものは「ハンドスクリーン」「ハンドプリント」などとも呼ばれます。

紀元前2000年ごろまでさかのぼる捺染の歴史

捺染の歴史は、紀元前2000年ごろまでさかのぼるといわれています。ヨーロッパでは、17世紀の大航海時代に、インドから更紗(さらさ:木綿地に手描きや型を使って柄をつけたもの)が持ち込まれて以来、捺染の技術が発達しました。

フランスのリヨンやイタリアのコモのプリント染色は世界的に有名です。

京都では、江戸時代に今でいう手描き友禅がはじまり、その後、捺染技法を使った型紙友禅に発展して、今も京都で受け継がれているという歴史があります。

横浜では、江戸時代後期に横浜港が開かれてから捺染が広まり、外国の木版技術を取り入れて発展していきました。

捺染の中にも種類がある!

 

ライター松田
ライター松田

捺染は「手捺染」か「機械捺染(オートスクリーン)」かがあると聞きました。その違いはどんなものなのですか?

鷲野さん
鷲野さん

簡単に言うと、機械捺染は大量生産に向いていて、手捺染は小ロットから生産できることです。ただ、現在は機械捺染工場も小ロット生産に対応するようになっており、その違いも埋まってきていますね。なので、手作業のこだわりや強みを極めていくことが求められていると思って、ものづくりをしています!

ライター松田
ライター松田

そうなのですね、確かに、海外に生産拠点を移す企業や安さを追求する流れが強くなっていますね。

鷲野さんの手捺染のものづくりの特徴は 、【鷲野さんのこだわり】 でお聞きしていきます。

緻密な柄を美しくシャープに表現できる捺染の魅力

色糊で染色する写真

捺染の魅力は、緻密な柄を美しくシャープに表現できることです。

伝統的な染めの技法として、「捺染」と並ぶものに「注染(ちゅうせん)」がありますが、「注染」はぼかしやグラデーションを活かしたデザインが特徴という一方で、「捺染」は色がにじまない染め方なので、繊細な線画や複雑なパターンデザインを得意としています。

参考

「注染」と「捺染」の違いと特色 
・「注染」防染糊で色をつけない部分に土手をつくり、着色部分に色を注ぐ。色のにじみやグラデーションに味がある。
・「捺染」染料と糊を混ぜ、一色につき一枚の型紙を使い、生地に色をのせる。輪郭がはっきりと出るので、繊細な柄も得意。

捺染柄の写真

ライター松田
ライター松田

捺染の製品を1つ作るのにどのくらいかかるのですか?

鷲野さん
鷲野さん

製品の企画からだと、1つの製品を作り上げるのに5~6ヶ月かかります。企画にも時間がかかりますが染める工程でも「捺染」は一色につき一枚の型が必要で、一色染めては乾燥させてから次を染めなければいけません。つまり、6色使われている柄の場合は、6種類の型を使って染め、最低6回の乾燥が必要ということです。

ライター松田
ライター松田

乾燥にも時間をかけ、丁寧に作業を行うからこそ、繊細なラインもシャープに表現できるのですね。

参考

捺染の工程
①型づくり:新規のデザインならば、型屋に依頼して型製作をする。
②糊づくり:染料と糊を調合して色糊をつくる。生地によって糊との相性があるため、調合の工程はとても重要!
③染色:型を生地の上に乗せて、色糊とスキージ(ゴムべらの道具)で染色していく。
④乾燥:一色を染めたら乾くまで乾燥させる。

色ごとに染色と乾燥を繰り返すことで、美しい柄を染めることができる。

実はとても大変な仕事!「手捺染」の特徴

手捺染の作業の様子の写真

捺染の中でも、機械を使わずにスキージ(ゴムべらの道具)で染めるものを「手捺染」といいます。

手捺染の魅力は、ずばり「色」です。 手作業による絶妙な力加減や精密な柄の表現によって、オートスクリーンやインクジェットプリンターにはない色の深みが出ます。

職人さんの手で一色ずつ染め上げられることで、どこかあたたかみを感じる染め物ができ上がります。

手捺染の特徴や、「捺染」と「注染」の違いは、下の記事で詳しく紹介しています。

こだわり続ける!鷲野染工場のあゆみ

参考

鷲野染工場とは?
京都府左京区一乗寺でmade in京都、 made in日本にこだわって手捺染による染色加工を行っている染工場。創業以来、手捺染にこだわり続け、雨傘、洋服、水着、鞄等の生地を主体にプリントを行ってきた。現在は生地染以外にも、オリジナルに染めた生地を使った製品の製造・販売や、立命館大学北岡明佳教授の錯視図形のプリントにもチャレンジしている。
【これまでの主な製作】
メゾンブランドからの傘生地、服生地の受注生産などを手掛けている。

京の染物と鷲野染工場

ライター松田
ライター松田

京の染め物と聞くと和装が思い浮かびますが、鷲野染工場では代々洋傘のプリントをされてきたのですね。

鷲野さん
鷲野さん

京都といえば、着物や傘の中でも和傘を思い浮かべる人が多いみたいですね(笑)。でも実は、京都では以前から、手捺染で高級婦人服の生地も染めてきました。

京友禅、西陣織などでも知られているように、京都では古くから染織業が盛んで、長い時間をかけて染織の文化がはぐくまれてきました。

鷲野さん
鷲野さん

一乗寺は、昔は友禅染の一大産地として多くの染工場がある地域でした。時代の流れと共に工場の数は減ってしまったんですが、うちでは先代より受け継いだ、京都では数少ない傘生地の染めや、競合との差別化にチャレンジしながらものづくりに励んでいます。

ライター松田
ライター松田

歴史ある京都の染織業でつちかわれてきた技術の一つが、手捺染ということなんですね。伝統を守りつつ、分野を広げて挑戦することを大切にされているのが伝わってきます。

挑戦の歴史

ライター松田
ライター松田

先代から継がれた傘に関しても、さまざまなチャレンジをされてきたとうかがいました。大変なことも多かったのではないですか?

鷲野さん
鷲野さん

父から事業を受け継いだとき、ほぼすべてのことに改革を行いました。その期間は本当に苦労しましたし、またいろいろな人の助けがあり、だからこそ今の評価があるのだと思います。

ライター松田
ライター松田

改革というと、例えばどんなことですか?

鷲野さん
鷲野さん

特に「糊」を変えました。糊は、手捺染の根本にかかわってくるので本当に重要なものです。なので、京都の強みである糊屋さんと協力して、徹底的にうちで使う糊の改良と開発を行ったんです。

ライター松田
ライター松田

そうなんですね!具体的にはどこを改良されたのですか?

鷲野さん
鷲野さん

糊の素材自体も変えましたし、傘の生地に合う糊に変えました。そのことで、発色が今までと見違えるまでに変わり、お客様からも高評価をいただくことができました。

ライター松田
ライター松田

ええ!すごいですね! 糊の改良にも手捺染の技術にもこだわりをもって挑戦してこられた結果なのでしょうね!

ライター松田
ライター松田

鷲野さんの代からは傘だけでなく、服地も手がけられていますよね。何かきっかけがあったんですか?

鷲野さん
鷲野さん

京都の仕入先から評価を受け、服地にもチャレンジしようと思ったことがきっかけです。

ライター松田
ライター松田

服地だと、傘生地とは違い、いろいろな素材を染めないといけないので、大変なことも多かったのではないですか?

鷲野さん
鷲野さん

その通りで、傘生地はポリエステルを主体に染めていたのですが、服地はポリエステル、綿、レーヨン、麻などいろいろな素材があるので、全ての工程を見直し、改良を何回も行いました。すごくいい経験になりましたね。

糊部屋の写真

素材によって使う糊や染料の種類を変えるため、鷲野さんの調合室には山ほどの染料が置いてありました!

ライター松田
ライター松田

鷲野さんの手捺染の技術の確かさと、しあがりの美しさは、鷲野さんの努力と挑戦のたまものなのですね!

柄・デザインへの挑戦

ライター松田
ライター松田

鷲野さんの製品の柄はすべて自分で考えているんですか?

鷲野さん
鷲野さん

自分で考えているものと、コラボしているもの、元々持っている型のものがあります。

ライター松田
ライター松田

工場によって持っている型が違うのですか?

鷲野さん
鷲野さん

はい、うちで持っている型は他社では持っていないし、他社の型はうちにはないです。

写真は一部ですが、鷲野さんの工場には数えきれないほどの型が置いてあり、それぞれの型からすべて違う柄ができるのかと思うと、感慨深かったです。

ライター松田
ライター松田

本当にたくさんの型があるのですね!ところで、今日見せていただいた中では、錯視図形のデザインが一番印象にありますこのデザインはどうされたのですか?

鷲野さん
鷲野さん

20年くらい前に目の錯覚になるプリントを見てから、いつかこんなおもしろい柄を染めてみたいと思うようになったんです。捺染の魅力は大胆と繊細さを持ち合わせた柄の染色だと思うし、自分の手でそれを表現してみたいと。それから何年かたって、ありがたいご縁で錯視図形研究の第一人者・立命館大学の北岡明佳教授にお会いでき、錯視図形を使った商品製作の許可をいただきました。

ライター松田
ライター松田

20年も前から!念願の錯視図形の染色だったのですね。今回捺染のことを勉強させていただいて、、錯視図形デザインは、細かい模様を鮮やかにプリントできる捺染だからこそのものなのだとよくわかりました!!

鷲野さんのホームページから錯視図形の作品をご覧いただけます。

鷲野染工場のHPはこちら

実物を見せていただきましたが、見ていると柄が動き出したり回転したりするほど、正確に錯視図形のデザインが染め上げられていて本当に驚きました!

複雑な柄でも正確に、色も美しく染め上げられているのは、さすがの職人技です!

鷲野さんのこだわり~より美しい捺染を求めて!

手捺染の作業の様子の写真

ライター松田
ライター松田

先ほど、糊や染料のお話もありましたが、鷲野さんの製品に対するこだわりをお聞かせください。

鷲野さん
鷲野さん

こだわっているのは柄と色の表現力です。染めるときに使う糊は通常1,2種類ですが、うちでは3~4種類の糊を使い分けて、どんな素材でも美しく染められるように励んでいます。

鷲野さん
鷲野さん

また、非常に細かいメッシュ(1000~1350メッシュ)の型を使うことで、柄をよりシャープに、よりクリアに表現しています。

メッシュとは、型に貼られているもので、布に柄をプリントしていく際に色糊が通るとても小さな網です。従来の手捺染では700~800メッシュ、機械捺染では1000~1350メッシュというのが一般的です。細かいメッシュの捺染は「ハイメッシュスクリーン」とも呼ばれます。

ライター松田
ライター松田

手捺染ではあまり使わないとても細かいメッシュを使われているということですね!先ほど見せていただいた、鷲野さんが染められた生地は、本当に模様が細かくて、メッシュを通して染められているとは思えなかったです!!

鷲野さん
鷲野さん

ありがとうございます(笑)。

ライター松田
ライター松田

特に、錯視図形のデザインのシャープさと正確さには本当に驚きました!手捺染の技術以外にも、鷲野さんはプリントに使う生地や、服や傘などの仕立てにもこだわりを持たれているのですよね?

鷲野さん
鷲野さん

はい。シャツであれば、自社製品の生地は高品質なもの、縫製も自分が納得できる職人さんと協力して完成させています。こだわりが強すぎて向こうからしたら「うっとうしい」と思われることも多いかもしれないですが(笑)、本当に細かい部分もふくめて、自分の納得するものができるまで何度も作り直します。

ライター松田
ライター松田

そのこだわりが「いいものづくり」につながっているのだと強く思います!

鷲野さん
鷲野さん

手捺染で傘を染めることにこだわっているのは、代々うちの工場が任されてきたこともあり、自分が自信を持ってつくれる良いものはやっぱり傘だと思ったからです。機械化で大量生産できてしまう時代だけど、人の手から生まれる美しいものに触れてもらいたいという想いで、手仕事にこだわっています。

ライター松田
ライター松田

人の手で作られるものには、なぜあたたかみがあるのでしょうね。私も、こんな時代だからこそ、手仕事による良いものが必要なのではないかと感じます。

鷲野さんの作られている手捺染の日傘は、こちらからチェックできますよ!

京都唯一の手捺染による日傘
持つだけで気分が上がる、美しい傘

手捺染の傘「ゼブラ」の写真

京都の染屋が生み出した手捺染の生地にこだわった日傘。

ゼブラ柄がオシャレでモダンにデザインされ、傘自体のつくりにもこだわっているため、長く愛用できます。

鷲野染工場
【手捺染】鷲野染工場 日傘 ゼブラ パープル

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さらなる挑戦へ~今後に期待大!

ライター松田
ライター松田

今後、手捺染でやりたいことがあれば教えてください!

鷲野さん
鷲野さん

まずは、自分が今取り組んでいる錯視図形の販路開拓を完全にもっていきたいです。

ライター松田
ライター松田

鷲野さんの商品は、どれもオリジナリティあふれるものが多いですよね!

鷲野さん
鷲野さん

はい、昔から心がけているのが、オリジナルのものをつくることです。京都は分業体制なので自分だけでなく、協力工場さんの手助けも必要不可欠です。協力工場さんたちと一緒に京都のものづくりを盛り上げたいですね。

ライター松田
ライター松田

鷲野さんの手で染められる美しい柄からは、これからも目が離せませんね!

手捺染による味わいのある風呂敷
質にもデザインにもこだわりたい方へ!

手捺染によるピンクの風呂敷の写真

京都の染屋が生み出した、手捺染の生地にこだわった風呂敷。

エコバッグとしても贈り物としても◎。和装にも洋装にも合い、さまざまなシーンで大活躍!

鷲野染工場
【手捺染】鷲野染工場 風呂敷 ダイヤ ピンク

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まとめ

鷲野さんのお話を伺って、捺染について興味がわいてきた方も多いのではないでしょうか?

鷲野さんは気軽に手捺染を体験できるワークショップも行われているので、ぜひチェックしてみてくださいね!

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