
日本には、江戸切子や印伝、備前焼などとっても魅力的で人気の伝統工芸品がたくさんあります。一方で、あまり知られていない産地の工芸品などは、後継者不足に頭を悩ませているのも現状です。伝統工芸の従事者は30年間で7割以上が減少したと言われています。
そのような中で、なんとか日本の伝統工芸品を遺していきたいと心の中で思っている方も多いと思います。
私もその中のひとりで、伝統工芸職人ではありませんが伝統工芸品をもっと多くの方に知ってもらうきっかけをつくりたいとの思いからこの記事を書いています。
これから、伝統工芸職人になりたいと考えている方の後押しが少しでもできればと思いますので、ぜひ職人を目指している方は参考にしてもらえたら嬉しいです。
どうしたら伝統工芸職人になれるのか?
資格はいらない・未経験でも大丈夫
伝統工芸職人は、特別な資格や教育を受けていなくても目指すことができます。
美術系や工学系の大学や専門学校で学び基礎知識を持っていることは、腕を磨くにあたって有利な武器になると思いますが、伝統工芸職人になるために特別な資格や学士などは必要ありません。
資格がいらないということは、未経験でも全ての人になるチャンスがあるということです。
求人の募集もある
自治体などによっては、普通の求人募集で伝統工芸職人を集めているところもあります。
ごくまれに、有名な就職サイトで募集がかかったこともありました。
しかし多くの場合、伝統工芸の世界で大々的な求人募集がかかることはほとんどありません。
伝統工芸師を目指す人向けのマッチングサイトもありますが、決して多い募集数ではなく、希望する工芸品の求人はなかなかみつかりにくいです。
根気強くチェックし気になるものがあればすぐに応募してみることをおすすめします。
求人募集のサイトについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
>伝統工芸の担い手になりたい人必見!弟子募集が掲載されているサイトまとめ
最初の収入は厳しい年収も200万円を切ることも
また、運よく伝統工芸職人の卵になれたとしても、収入は厳しい時代が続くでしょう。
年間収入が200万円を切るようなことも珍しくありません。
製造者に補助金の出る伝統工芸品も増えてきましたが、ほとんどの工芸品は売れた数しか収入になりません。
2017年に話題になった「西陣織の弟子募集がブラック」だというTwitterの投稿が話題になりましたが、現実問題として”弟子”として働く場合にはこのような待遇の工房が多いことも事実です。
収入面がネックだと考える方は、大手のメーカーなどに就職するのも一つの選択肢です。
”弟子”ではなく社員として入社できれば、一般企業とさほど遜色ない待遇が受けられます。
参考記事:
>「半年給与なし。仕事保証なし」 京都・西陣織職人の「弟子募集」はブラックと言えるのか
惚れ込んだ工芸品の世界へ
それでも若い人が伝統工芸の世界へ飛び込んでいくのは、”ものづくりの魅力”があるからだと思います。
最も大切なことは、募集のかかっている伝統工芸職人の仕事が、あなた本人の希望する仕事なのか、という一点です。
惚れ込んだ工芸品作りに携わることができるのなら、どんなことでもやる、という向こう見ずで無鉄砲な若者の美点が必要です。
九州で活動しているひとりの若い野鍛冶は、海外で見た博多包丁に惚れ込んで、弟子などとったことのない小さな工房の老職人のもとを訪ねました。
弟子入りを断られても、ハンマーの音を聞くだけでもよかったと、何度も弟子入りを願い、工房を訪ね続けました。
それでも工房の近所に部屋を借り、独立後の作業場にまでメドをつけ、背水の陣で臨んだ3度目のお願いで弟子入りを認められました。
簡単に弟子入りや就職できるメーカーにはない独自の技術やノウハウがあるこのような工房に弟子入りするというのも唯一無二の技術を習得できる可能性があります。
心から惚れ込む「これだ!」という工芸品を探そう
伝統工芸品に対する愛着が大切
工芸品は愛着が大切です。
使う場合も、作る場合も、一に愛着、二に愛着です。
工芸品の愛用者は、しげしげと飽きもせず、ずっと工芸品を手に取って眺めます。
いつまで眺めても飽きません。
漆器や茶碗など普段から使う食器に惚れ込んだ工芸品を使うと、どんな食事も楽しくなり、ただの味噌汁一杯をにやにやしながら飲んだりします。
指紋もきれいにふき取りたくなり、息をかけて磨いたりします。
寝床に入ってもしばらくの間、どうやって作っているんだろうと、職人の世界に思いを馳せたりします。
職人を目指したくなるほど愛せる工芸品に出会えるかどうかが最大のポイントです。
一つの工芸品から「どうやって作るのか」「どんなところで使われているのか」などを想像してみましょう。
誰の心にも、芸術の爆発を実感できるほどの衝撃を受ける工芸品はあるものです。
手に取って、買って、使って、マネしよう
工芸品に宿る「物語」
工芸品には味わい深い物語があります。
それは、少し心を澄ませてみると、工芸品そのものが語り掛けてくる物語です。
まず工芸品に近づいてみましょう。
美術館ではガラス越しに見る工芸品も、お店なら触れます。
高級品はお店でもガラス越しに眺めることになりますが、カタログの写真やネットの画面より、はるかに多くのことがひとつの工芸品からわかってくるはずです。
漆器の艶の中にふと滲む筆の跡の滑らかさ。
鍛え抜かれた刃先の根元にひっそりと刻まれた包丁の銘。
銅のビアタンブラーの美しい鎚目から聞こえてくる職人のハンマーの音。
手に取ってみよう
できれば一個買って、持ち帰って、しげしげと眺めたいはずです。
使ってみたいはずです。
食卓に並べて、お気に入りのメニューをよそってみたくなるはずです。
「高くて買えない」と諦めず、買うための貯金や節約など、モチベーションを高めるのも、職人への道の第一歩です。
使ってみよう
工芸品は箱に入れて特別な時にしか使わない印象がありますが、しまっておかれた工芸品は少し寂しく感じます。
「用の美」ということばがあるように、道具の美しさとは、使われることで輝くものです。
触って壊れるようなものは工芸品とは呼べないし、壊れるような使い方をするようでは工芸品の愛用者とは呼べません。
元来、工芸品とは、人に使われることで価値を増してきました。
骨董の大半がそうです。
ただの茶器より「信長の茶器」のほうが価値があり、ただの刀より剣豪の刀のほうが価値があるように。
作り方を知ろう
そして、どうやって作られたのかを調べてみましょう。
ひとつの工芸品づくりにはたくさんの工程が含まれていて、その工程ひとつひとつに専門の職人がいます。
例えば日本刀は、三日三晩寝ずに炉を燃やす玉鋼づくり、刀身を打つ刀匠、刃をつける砥師、鞘師、鍔師、束巻師など、たくさんの職人が携わり、複雑な工程を経て生まれます。
シンプルに見える工芸品でも、思いもよらぬ作り方をされていたり、複雑な工程で生まれたことがわかると、工芸品に宿る物語にさらなる厚みを感じることができるはずです。
工芸品を育んだ地へ ~工芸師への第一歩~
産地を訪ねる
伝統工芸の大切な定義のひとつに「地域に根差した手工芸品」であることが挙げられます。
陶器や漆器の多くに有田焼や輪島塗など産地の名前が冠するのは、その土地の風土と人々が生み出し、守り続けてきたことから、地名が工芸品の名前になりました。
産地を訪れるのは、大きな刺激になるはずです。
いざ工房へ
店で実物を見て、博物館で昔のものを見て、料理店などで使っているのを見て、じっくり工芸品を楽しんだあと、いよいよ工房へ突撃です。
絶対に断られる覚悟は、もうできているはずです。
そもそも初対面でホイホイと弟子にしてくれる師匠というのもヘンです。
伝統工芸職人の世界は、自分が「無理だ」と諦めるより、職人のほうから「こいつには無理だ」と思われて断られるのが大半です。
あなたはここに、作っている職人を訪ねにきたのであり、工芸品を見て心の中で膨らませてきた物語を確かめに、やってきたのです。
そして、工芸師の扉を叩く瞬間があなたに訪れます。
工房を訪ねた瞬間、道さえ見えなかった時期さえあった人生に、長い道が見えるはずです。