扇子とは

扇子は、日本の夏の風物詩とも言えるアイテム。落語などの伝統芸能にも欠かせず、末広がりで縁起の良いかたちであることから、七五三など人生の節目の行事でも身に着けられます。
扇子は古くから伝わる匠の技で作られる伝統工芸品で、京都が発祥とされる日本生まれの道具です。その歴史は、平安時代初期まで遡ります。
紙が貴重だった当時、短冊状に切った薄い木の板をつなげた「木簡(もっかん)」と呼ばれる道具が使われていました。そこから派生し、ヒノキで作った「檜扇(ひおうぎ)」が生まれたのが扇子のはじまりと言われています。その後、竹と紙を材料にした紙扇も作られるようになりました。
『阿須賀古神宝類 彩絵檜扇』(京都国立博物館所蔵)
「ColBase」収録 画像出典元:ジャパンサーチ
扇子は、もともとは扇いで風を送るための道具ではなく、宮中儀式の手順をメモしたり、和歌などを添えてコミュニケーションの道具として使われたりするものでした。また、平安時代末期までは、扇子は貴族や僧侶など一部の位の高い人のための道具で、一般の人々は持つことを禁じられていたそうです。
しかし、室町時代には庶民も扇子を持つことが許され、京都で発展した能や茶道などでも使われるように。さらに、江戸時代には多くの人が使う日用品として広く普及していきました。
現代においても、扇子は日本人のくらしに深く根差した道具として、年齢性別問わずたくさんの人に愛され使われ続けています。
扇子職人による扇子の作り方
【京扇子を仕立てる5つの工程】
ここからは、扇子発祥の地である京都の「京扇子」における基本的な扇子の作り方を見ていきます。京扇子とは、扇面・扇骨・仕上げ加工すべてを京都および京都近郊で生産した扇子のこと。京扇子の名称は、京都扇子団扇商工共同組合の組合員だけが使用を認められています。
扇子作りは、竹を切るところからスタート。骨組み作りや紙の加工など、ひとつの扇子を作り上げるのに実に87もの工程があると言われています。ほかにも有名な東京の「江戸扇子」などでは職人がひとりで扇子を作り上げますが、京扇子では多岐にわたる扇子作りの工程を、それぞれ専門の職人が分業で行なうのが特徴です。
見た目だけでなく、使いやすさや扇いだときの風の心地よさなども重視しながら、今も熟練の職人が手作業でひとつひとつていねいに仕上げています。扇子の作り方を知ることで、ますます扇子に興味と愛着がわいてきますよ!
扇子の作り方1
骨作り

扇子の材料に使われるのは、3年~5年育った若い竹。扇骨に使われるのは、竹の皮と中身を削り取って残る一部分のみです。熟練の職人が手作業で長さ、かたち、色、光沢をそろえ、扇子の骨組みを作っていきます。
竹を薄く細く加工したら、扇子を根元で束ねる部分「要(かなめ)」を通す穴を一本一本に開けていきます。ここで穴がズレてしまうと、きれいな扇子に仕上がりません。
長い串に通して何百枚もまとめ一枚の板のようにしたら、側面をノミや包丁などで削りかたちを整え、屋外で日光に当て乾燥。その後、なめらかに磨き、必要に応じて色付けや彫り細工などの装飾を加えます。
扇の紙に差し込みやすいよう骨の先端を細く薄く削るなどの加工を施したら、要を差し込んでとめて、扇骨の完成です。
扇子の作り方2
紙加工
扇子は2枚の紙を竹の骨の両側から貼り合わせて作られると思われがちですが、じつは、3層構造の特殊な和紙の真ん中に竹を差し込んで作られています。そのため、扇子作りには扇面になる「地紙(ぢがみ)」と呼ばれる和紙の加工も必要です。
地紙の中心になるのは「芯紙(しんがみ)」という薄い和紙。芯紙を使うのは、裂けやすいつくりで扇骨を差し込む穴を開けやすくするためです。芯紙の表と裏に「皮紙(かわがみ)」と呼ばれる和紙を糊で貼り合わせ乾燥させます。
紙が乾いたら、扇面のかたちに合わせて裁断。紙の加工は完成となります。
扇子の作り方3
上絵
扇面の表面に絵師が一枚一枚絵を描き装飾を施します。手描きのほか、型刷りや木版を使った技法も用いられますが、折り目が付いたときに絵が曲がっておかしく見えないよう、折り目の場所を意識して絵付けをすることが大切です。デザインによっては、糊を引いて金箔や銀箔を貼る場合もあります。
扇子の作り方4
折り加工
絵付けをした紙に、じゃばら状の折り目をつけていきます。使用する道具は、分厚く折り癖がつけられた2枚の型紙。湿らせた地紙をはさみ、端から手早く均一にたたんで折り目をつけます。
地紙が乾いたら、竹べらを使って紙を2層に分け、中骨が通る道を作ります。その後、地紙を折りたたんだ状態で、大きな包丁で裁断。扇子の大きさに切りそろえます。
扇子の作り方5
仕上げ加工

仕上げの工程は「ツケ」とも呼ばれ、ここまで別々に作られてきた扇骨と地紙を組み合わせていきます。
折りの工程で開けた穴に息を吹き入れ、中骨を差し込みやすいよう穴を広げます。広がった穴に糊を引いた中骨を差し込み接着させますが、扇骨の数が増えるほどに隙間が狭くなり、作業には熟練の技が必要です。
親骨と呼ばれる両端の太い骨は、火であぶって内側に曲げます。これにより、扇子を閉じたときの閉まりがよくなり、「ぱちん」という小気味よい音がするようになります。最後に親骨を地紙に接着し、乾燥させて完成です。
違いを確かめよう!
BECOSがおすすめする職人の心と技がこもった扇子

職人が作り上げるこだわりの扇子を揃えました。
その地域ごとに特徴が微妙に異なり、どれも伝統工芸の技が光り、日本の美しさを感じることができる逸品です。
扇子には女持と男持があり、使う方やシーンに合わせて選びましょう。
【京扇子】
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【江戸扇子】
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【名古屋扇子】
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世界でひとつだけの扇子を手に
扇子の作り方を学べる体験スポット&手作りキット
扇子の作り方を実際に体験してみたいという方もいるでしょう。日本の伝統工芸でもある扇子作りは、日本に古くから受け継がれてきた手仕事の素晴らしさやの伝統文化を学ぶきっかけにもなります。ここからは、扇子の作り方を学べるおすすめスポットと商品を紹介していきます。
老舗扇子店で扇子の作り方の一部を体験!
「白竹堂」
創業300年の京都の老舗扇子店「白竹堂」。伝統の技を駆使した京扇子から、レースやラインストーンなど今までにない素材をあしらった扇子まで、豊富な品ぞろえの扇子をラインナップしているお店です。さらに、扇子の良さを少しでも多くの人に知ってもらいたいと、扇子の絵付け体験も行っています。
地紙に好きな絵や文字を描き、扇子作りの一部を体験。後日職人がていねいに仕上げ、世界にひとつだけのオリジナルの扇子を届けてくれます。オプションで、職人による扇子の仕上げの工程も見学できます。
名称:白竹堂 京都本店
所在地:京都市中京区麩屋町通六角上ル白壁町448番地
電話:075-221-1341
公式URL:https://www.hakuchikudo.co.jp
扇子作りの仕上げの工程も体験できる
「大西京扇堂」
扇子の絵付け以外の製作工程を体験できる工房もあります。天保年間から九代続く扇の老舗「大西京扇堂」。絵付け体験のほか、扇子作りの最終工程である仕上げも体験することができます。
京扇子についての話を交えながらの体験で、きっと扇子についての興味と知識が深まりますよ。
名称:大西京扇堂
所在地:京都市中京区三条通寺町東入ル石橋町 18
電話:075‐221-0334
公式URL:http://www.onishi-kyosendo.jp/
東京で扇子の作り方を体験したい方に
「順扇堂」

東京で扇子作り体験ができるスポットを探している方におすすめなのが、杉並区で扇子の製造販売を行う「順扇堂」。「絵付けコース」と「扇子職人体験コース」のふたつが用意されていて、目的に合わせた体験ができます。
「扇子職人体験コース」では、扇子の竹を付ける体験も。子どもの夏休み工作にもぴったりです。
名称:順扇堂
所在地:東京都杉並区宮前5-6-4
電話:03-3332-8407
公式URL:https://junsendo.net/experience/
おうちで扇子の作り方を学びたい方に
折りと仕上げを自分でできる扇子作りキット
こちらは、自分で地紙をじゃばらに折り、付属の竹へらで骨が通る穴を広げ、扇骨をひとつひとつの穴に差し込んで仕上げる扇子作りキット。すこしコツが必要ですが、その分やりがいもあって、扇子の作り方への理解も深まるでしょう。販売サイトにキットを使った作り方が、写真や動画でくわしく解説されているので安心して挑戦できますよ。
あつらえ扇子 あや
扇子キット 7.5寸15間扇子 挑戦コース
扇子の作り方を知って扇子への興味を深めよう
奥が深い扇子作りの世界。多岐にわたる工程を経て職人が手仕事で作り上げていることを知ると、ますます文化として大切にしていきたくなりますね。夏の暑さをしのいだり、粋なファッションアイテムとして使ったりと魅力もたっぷり。ぜひ扇子をたくさん活用していきましょう!
扇子作りに関するよくある質問
- 扇子はどのように作られているのですか?手順が知りたいです。
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扇子は多くの工程と職人の手を経て仕立てられています。特に正しい手順で作られる京扇子は87もの工程があると言われています。一般的には大きく「骨作り」「紙加工」「上絵」「折り加工」「仕上げ加工」の5つの工程に分けられます。詳しくは記事内で画像付きでご紹介しています。